オンライン・オフラインの融合で店舗スペースを効率化

「SHITATE」を含めた青山商事のビジネスウェア事業を陰で支えるのが、2016年から展開する販売システム「デジタル・ラボ」だ。店内にタッチパネル式のデジタルサイネージを設置。全国に700店舗ある「洋服の青山」の店在庫と連動しており、来店した店舗に商品がなくても、他店の在庫を一覧できる。
スーツを購入する際は裾直しなどの直しが入るので、受け取りに再来店するのが通常だ。しかしデジタル・ラボで購入したスーツはオンラインストアの販売ルートに乗るので、裾直しなどをしたスーツは自宅に配送される仕組みになっている。顧客にとっては再来店の手間が不要になり、利便性の向上につながる。
一方、店舗側にとってのメリットは、店内に大量の在庫を置かずに済むのでスペースの有効活用が図れること。スーツ売場を縮小し、その代わりにビジカジやレディースの売場を新設・拡充するなど、各店舗の地域特性に合った売場展開を図ることができる。
「当初は『青山なのにこれしか在庫がないの?』というお客さまの反応が不安視されたが、実際にはそのようなことはなく、逆に『買い物の幅が広がった』と好評を頂いた。今では大規模店舗にも順次導入している」(長谷部氏)
ある地方の大型店舗では、デジタル・ラボの導入によって300坪あった店舗面積を200坪に縮小。残り100坪をフランチャイジー事業のフィットネスジムに改装し、スペース効率を高めることができたという。
麻布テーラーを買収、オーダースーツ戦略に厚み

再び、話題をオーダースーツに戻そう。青山商事では「SHITATE」を導入したオーダースーツ対応店舗を、2022年度内に450店舗に増やす計画を立てている。単価が既成スーツの約1.8倍であるオーダースーツの構成比を高め、さらなる売上向上を図る構えだ。
しかし、オーダースーツの接客対応には、採寸や各スペックの説明など、既成スーツ以上に膨大な商品知識が求められ、販売スタッフの育成に時間がかかる。「スタッフの研修を同時並行で進めながら少しずつ店舗を増やしている状況」(長谷部氏)であり、無理な拡大は行わない方針だ。
これら「UNIVERSAL LANGUAGE MEASURE’S」「SHITATE」の青山商事のオーダースーツラインに、強力な“ピース”が加わった。2022年4月に買収した「麻布テーラー」(旧運営企業:エススクエアード)だ。
「高い認知度と、一定の根強い顧客層を持っている麻布テーラーが加わることで、当社にとって空白だった高額ゾーンを強化し、オーダースーツ戦略に厚みを持たせることができる」(長谷部氏)
1964年の東京五輪日本選手団のブレザーを手掛けるなど、長年にわたり培ってきたテーラリングや接客技術を持つ麻布テーラーのノウハウを、グループ内で横展開していくことも今後は期待される。エントリーラインから高級ラインまで、オーダースーツのフルラインをそろえたことで、将来的にはスーツ総売上に占めるオーダースーツの構成比を50パーセントにまで高めるビジョンを描いている。
最大のボリュームゾーンだった「団塊の世代」が続々とリタイアし、加えてコロナ禍も長期化の様相を呈するなど、紳士服業界への逆風は依然として厳しい。しかしながら、ニーズの多様化による新たなビジネスチャンスも生まれている。業界のリーダーである青山商事の挑戦に引き続き注目したい。
「根底にあるのは、当社はあくまで『スーツ屋』であるということ。長年培ってきたスーツの縫製技術を強みに、オーダースーツはもちろん、ビジカジやレディースウェアなど、多様化するビジネスウェアのニーズに応えていきたい」(同)
提供元・DCSオンライン
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