2022年5月に発表された青山商事(広島県/青山理社長)の2022年3月期決算は、売上高が1,659億円と前年(1614億円)から45億円増加。営業利益は21億円と、前年(マイナス144億円)から一転、黒字回復を果たした。

スーツ市場が縮小傾向にある中、紳士服業界の大手各社がスーツの“一本足打法”から脱却し、事業多角化を進めている。青山商事の業績回復の要因もそこにあるのか?と思いきや、実は意外にも、好調を支えているのは本業のビジネスウェア事業だった。しかも、そのカギは「オーダースーツ」にあるという。同年4月にはあの「麻布テーラー」を買収した、青山商事の独自の「オーダースーツ戦略」に迫る。

ビジネスウェア需要に回復の兆し

脱スーツではなく、スーツ注力で黒字化!青山商事、業績回復引っ張るオーダースーツ戦略とは
(画像=名護店併設外観(洋服の青山・エニタイムフィットネス・焼肉きんぐ)、『DCSオンライン』より引用)

リモートワークの普及で本業のビジネスウエア事業が伸び悩み、事業の多角化によるポートフォリオ強化を進めている――紳士服業界について、新聞報道などでよく語られるのはこのような論調だ。現にAOKIホールディングスなどは「快活クラブ」に代表されるエンターテイメント事業やウェディング事業など、「非ビジネスウェア」部門が売上の半数近くを占める。

業界最大手の青山商事も、総合リペアサービス事業「ミスターミニット」や「焼肉きんぐ」「エニタイムフィットネス」のフランチャイジー事業など事業多角化を推進している。しかし、いずれも売上に占める割合は1割にも満たない。依然として売上の約7割は本業のビジネスウェア事業である。広報部長の長谷部道丈氏も「あくまで当社の軸足はビジネスウェア事業にある」と強調する。

そのビジネスウェア事業の売上高は、前年の1,098億円から1,132億円へと34億円増加。営業利益は同マイナス157億円からプラス6億円へと、コロナ禍による苦境の中で黒字化を達成した。青山商事の業績回復のけん引役はビジネスウェアだったのだ。

不採算店舗の統廃合や販管費の削減などコスト構造改革の成果もあるが、「ビジネスウェアの需要がようやく回復してきた」と長谷部氏は好調の要因を語る。リモートワークからオフィスワークへの回帰の動きが広まり、ビジネスパーソンの間に「久々にスーツを新調したい」とのニーズが高まっているという。

「コロナ禍でスーツの着用が減っているのは確か。だが、着用する頻度が週5日から2日、3日に減っているのであって、スーツの需要そのものが落ちているわけではない」(長谷部氏)

また、久々にスーツに袖を通すと体型が変わっていて、ボタンやチャックが締まらない……という人も少なくなく、スーツの買い替え需要も業績を押し上げているようだ。

既存店舗を中心としたオーダースーツ戦略が奏功

脱スーツではなく、スーツ注力で黒字化!青山商事、業績回復引っ張るオーダースーツ戦略とは
(画像=既存店内に設置される「SHITATE」コーナー、『DCSオンライン』より引用)

スーツを中心としたビジネスウェアでは、近年のワークスタイルの変化を見すえて紳士服業界各社が独自色を競い合っている。「ビジカジ」(ビジネスカジュアル)のウェイトを高める企業、健康・スポーツ色を打ち出す企業とさまざまだ。その中で、青山商事が「最も力を入れている」(長谷部氏)と言うのが「オーダースーツ」だ。

「コロナ禍で、対面での打合せや商談が貴重な機会になり『対面だからこそ特別な一着を身につけたい』というニーズが高まっている」(長谷部氏)

もともと、消費者のニーズや嗜好の多様化を背景に、オーダースーツブームはコロナ前の2010年頃から高まりを見せていた。その火付け役は、タンゴヤが2009年に第1号店を出店した「Global Style」だ。「高価で手が届かない」「古くさい」イメージのあったオーダースーツをリーズナブルな価格で体験できるとあって、業界に新風を吹き込んだ。

そのブームに紳士服業界の各社も追随し、「低価格・短納期」を掲げるオーダースーツサービスを続々と展開していった。コナカの「DIFFERENCE」などがその一例だ。

青山商事もその波に乗り、2016年にはオーダースーツブランド「UNIVERSAL LANGUAGE MEASURE’S」のサービスを開始。次いで、2019年10月には低価格のエントリーライン「クオリティオーダー・SHITATE(シタテ)」をリリースした。

本体価格31,900円からの低価格でオーダースーツを体験できるSHITATEの出店にあたって、同社ではあえて独立の店舗を構えず、「洋服の青山」や「THE SUIT COMPANY」など既存店舗の中にインショップ形式で導入する戦略をとった。ねらいとしたのは、「オーダー目的ではないスーツ需要」の獲得だ。

「低価格とはいえ、それでもオーダースーツは多くの人にとってまだ敷居が高いイメージがある。お客さまがいつもの店にスーツを買いに来た流れで、自然にオーダースーツ売り場にご案内できるような導線を意識した」(長谷部氏)

この戦略が奏功し、「SHITATE」はオーダーの潜在ニーズの取り込みに成功。2019年度の103店舗から、2021年度は296店舗へと、導入店舗を徐々に拡大している。