チャート:9月FOMC、75bp利上げ観測が75%

パウエル議長、ジャクソン・ホール講演でタカ派姿勢を強めた理由
(画像=『アゴラ 言論プラットフォーム』より引用)

(作成:My Big Apple NY)

2023年以降はどうかといいますと、見事に利下げ転換予想が消えています。米6月CPI発表後に100bp利上げ観測が浮上すると共に景気後退懸念が強まった7月には、23年3月の利下げすら織り込んでいましたが、足元はご覧の通り少なくとも23年7月まで利下げ転換を予想していません。

チャート:23年7月まで、少なくとも据え置きを予想

パウエル議長、ジャクソン・ホール講演でタカ派姿勢を強めた理由
(画像=『アゴラ 言論プラットフォーム』より引用)

(作成:My Big Apple NY)

パウエル氏の講演内容に加え、地区連銀総裁が同日あるいは前日に積極的な利上げを支持する姿勢を示しており、2023年の利下げ観測後退につながったとみられます。

〇クリーブランド連銀総裁(タカ派、投票権あり)
「我々は恐らく、2023年までにFF金利誘導目標を4%を小幅に上回る水準まで引き上げなければならない可能性がある」
「物価高の状況が続いており、収束に向かうという有力な証拠が得られるまでは、金利を引き上げ、継続していかなければならない」

〇アトランタ連銀総裁(ハト派、投票権なし)
「パウエル議長の発言は、経済が鈍化するにつれて、雇用が失われ、ビジネスが減速するかもしれないという可能性に備えようとしたのだろう」
「仮にそうなった(経済が鈍化)するならば、比較的緩やかであればと望む」
「(前日の25日付けWSJ紙インタビューでは、経済指標次第で)75bp利上げもありうる」

〇フィラデルフィア連銀総裁(8月25日の発言、ハト派、投票権なし)
「FF金利誘導目標が(6月FOMCでの2022年FF金利見通し・中央値である)3.4%を超えて経済が鈍化するならば、(政策金利を)しばらく据え置くことが可能」
「(仮に50bpでも)大幅な利上げだ」

以上、全体的に2023年の利下げ観測をけん制する内容を受け米株相場が3%超も急落しましたが、同発言が足元インフレとインフレ期待が鈍化するなかで飛び出した結果、失望を招いたことでしょう。

米7月消費者物価指数(CPI)に続き、米7月個人消費支出(PCE)価格指数は前年同月比6.3%と前月の6.8%から鈍化。コアPCEも同4.6%と、21年10月以来の低い伸びでした。

チャート:PCE価格指数は鈍化、コアは鈍化が鮮明に

パウエル議長、ジャクソン・ホール講演でタカ派姿勢を強めた理由
(画像=『アゴラ 言論プラットフォーム』より引用)

(作成:My Big Apple NY

さらに、米8月ミシガン大学消費者信頼感指数・確報値の1年先インフレ期待は4.8%と速報値を下回り年初来で初めて5%割れを実現。5~10年先インフレ期待も2.9%と速報値に届かず、前月に続き3%割れを維持しました。逆に、消費者信頼感指数はインフレ期待の鈍化に合わせ、回復しています。

チャート:ミシガン大学消費者信頼感指数・確報値、インフレ期待の低下に合わせ消費者信頼感は底打ちの兆し

パウエル議長、ジャクソン・ホール講演でタカ派姿勢を強めた理由
(画像=『アゴラ 言論プラットフォーム』より引用)

(作成:My Big Apple NY)

インフレは確実に鈍化しつつあるようにみえるものの、パウエル氏はインフレへのファイティング・ポーズを維持しました。振り返れば、5月FOMC後の会見では「ボルカー氏を尊敬しない者などいない」と発言。当時も、中立金利を超えて引き締め寄りの政策を講じる可能性を点灯させていたものです。

しかし、今回敢えて言及したのは、モルガン・スタンレー・アジア の元非常勤会長でイエール大学シニアフェローのスティーブン・ローチ氏を始め、一部の有識者やメディアが1970年代の金融政策の失敗と、その後のボルカー時代の大幅利上げによる景気後退の懸念を寄せてきただけに、明確に否定する姿勢を示す必要に迫られたのでしょう。

今回、インフレ抑制に確固たる姿勢を強調した背景として、依然として力強い労働市場がサポートとなったと考えられます。住宅リセッション(housing recession)との指摘が聞かれつつ、米7月雇用統計は好調で、米新規失業保険申請件数も増加したとはいえ過去と比較すると低水準を保ちます。

ジャクソン・ホール講演を踏まえると、米8月雇用統計も悪くない数字である公算が大きい。そうなれば9月FOMCで75bpの利上げに踏み切り、2023年のFF金利見通し・中央値が上方修正してもおかしくありません。

筆者は物価の落ち着きに合わせFedがハト派寄りにシフトすると予想していましたが、CHIPSプラスやインフレ抑制法が成立し、学生ローン返済免除を決定するなど、短期的にも長期的にも需要を下支えしそうな政策が打ち出された後なだけに、Fedはタカ派姿勢をしばらく維持せざるを得ないようです。


編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK –」2022年8月28日の記事より転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。

文・安田 佐和子/提供元・アゴラ 言論プラットフォーム

【関連記事】
「お金くばりおじさん」を批判する「何もしないおじさん」
大人の発達障害検査をしに行った時の話
反原発国はオーストリアに続け?
SNSが「凶器」となった歴史:『炎上するバカさせるバカ』
強迫的に縁起をかついではいませんか?