無敵のユナイテッドアローズに死角はあるか
そして、そのユナイテッドアローズのボトムラインを受け持つのが、「coen」というブランドで、このcoenは宿敵ユニクロにもガチ勝負をしかけている価格帯のように見える。しかし、ユニクロが「+J」を、半値八掛けで叩き売り、ブランド毀損させているように、プレミアムブランドを扱い、百貨店の顧客を奪い続けてきたユナイテッドアローズが、ユニクロに勝てるほどのローエンドの商品を同じコスパでものづくりができるかというと、それは難易度がかなり高いと私は思う。冒頭で述べたように、プレミアム商品を扱っている企業ほど、ローエンド商品をつくるノウハウが足りなく、結果、競争負けしているのではないかと考えるからだ。
さらに、セレクト業態はバイヤー(商品を選ぶのがバイヤーで、商品を設計するのがMD)の目利きが全てで、例え1年前に発注しても売り切るほどの消化率を誇るほど、消費者起点でものごとを捉えることが可能だが、green label relaxingなどのPBとなれば、生地ロットや生産ロットの問題で、全体のMDを売れ筋に寄る傾向にある。すると、楽しさがなくなってしまい他のSPAブランドと同じような似寄りの商品が並び、セールと在庫換金率との戦いが必要となる。このように、クルマで言えば、異なるエンジンが3つも動いており、それらが有機的に補完し合うようなブランドポートフォリオを組み立てるのは至難の技だ。同社もデジタル化を急いでいると聞くが、ぜひ、同社のこうした特徴をしっかり理解したコンサルの指導のもと、デジタル優先の効率化だけは避けていただきたいと思う。
最後に、同社は十分分かっているように思うが、今後、成長が期待できない日本市場に集中しすぎているのも気になる点だ。海外にもわずかながら出店しているも、いまだ同社の収益の柱になっているわけではないし、そもそも、セレクトショップの最大の強みは店頭にいる最強のFA (Fashion Advisor) 販売員である。セレクトショップにいって接客を受ければ、他のアパレルの販売員とのレベルの違いに驚愕するほどだ。今後、過度なEC化を進めれば、彼ら、彼女らのような極めて優秀な販売員を失いかねないことにない、販売力は無味乾燥なデジタル勝負になってしまう。
戦略とは捨てること、意思決定とは絞り込み
私の洋服ダンスのなかで、ユニクロを除けばNo.1ブランドであるユナイテッドアローズの評価をすることは極めて僭越ながら、私の分析を披露させていただいた。特に、ブランド間のシナジーについては、国内では比肩するアパレルは存在しない。ただ、プロの私から見て、同社のPB比率が増えてきたように思う。原料高、円安によるコスト増が主たる原因と思われるが、過度の利益追求は中期的には同社のブランド毀損を起こす気がしてならない。私は、同社は思い切って低価格ブランド、若者向けブランドを捨て、日本の上位数パーセントを占める世帯年収1000万円以上をターゲットに、プレミアム市場をガッチリ固め、フロー顧客でなく、ストック顧客のLTV (生涯価値)を高める戦略に出るべきだと思う。
仕入れた商品のほぼ全てを消化するといわれる希有な企業、ユナイテッドアローズの今後に目が離せない。
プロフィール
河合 拓(経営コンサルタント)
ビジネスモデル改革、ブランド再生、DXなどから企業買収、政府への産業政策提言などアジアと日本で幅広く活躍。Arthur D Little, Kurt Salmon US inc, Accenture stratgy, 日本IBMのパートナーなど、世界企業のマネジメントを歴任。2020年に独立。 現在は、プライベート・エクイティファンド The Longreach groupのマネジメント・アドバイザ、IFIビジネススクールの講師を務める。大手通販 (株)スクロール(東証一部上場)の社外取締役 (2016年5月まで)
デジタルSPA、Tokyo city showroom 戦略など斬新な戦略コンセプトを産業界へ提言
筆者へのコンタクト
提供元・DCSオンライン
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