日本では、「オワコン」と言われているアパレル産業だが、アジアでは数少ない成長産業の一つで、特に東南アジア、インドなどの人口増加が成長を牽引していると述べてきた。こうした成長産業が隣国にあるにも関わらず、人口縮小、所得低下、買い替え需要の長期化など、将来に対する展望が見えない日本市場に2万数千社弱のアパレル企業がひしめき合い、互いに潰し合いをしていることもこれまでいくつかの統計資料で説明してきた。今、アパレル企業の最大の打ち手は、文字通り「パイの食い合い」により、一社でも多くの事業所を潰すこと、あるいは、自社へ取り込むこと、つまり、企業買収による産業全体の重複機能の最適化なのである。この秋から冬にかけて、外資企業やファンド、アジア企業による「日本買い」が本格化するだろう。
さてこの文脈のなかで、今回はセレクトショップの雄、ユナイテッドアローズが今後も勝ち続けるための戦略提言をしたいと思う。
同じアパレル企業でも強みと弱みは個社ごとに全く違う
歴史がある企業ほど、タイタニックのような巨大船のようなもので、急旋回できず氷山にぶつかってしまうものだ。典型的な例が、メーカー出自のアパレルが、ワールドやユニクロから「先生」を招き、店頭起点の52週MD(商品政策)を導入して大失敗をすると言うものだ。そうしたメーカー出自のアパレルは、メンタリティもDNAも「良いものをキッチリ時間をかけてつくる」のが得意で、彼らの言葉を借りれば、「我々はスピードをあげて売れ筋をそれなりの品質で作るのは苦手だ」ということだ。
百貨店向けに「卸」商売をしてきたアパレル企業が、直営事業をやっても赤字になってしまうというのも典型的な失敗例だ。それは、明らかなオーバースペックとスピードの遅さに起因する。百貨店による展示会発注など無きに等しいのに、未だに展示会サンプルをつくらなければ巨大化した組織は一斉に動かない。さらに、百貨店基準と呼ばれるFLY (縫製中に糸くずが混入すること) 一つ許さないなど、不要で過剰な品質コストがかかってコスパ競争に負けしてしまう。
逆もまたしかりだ。小売出自のSPA(製造小売)アパレルは、売ることだけにフォーカスし、「売れるものが売れる時に店頭に並んでいればよいのだ」とばかりに、もの作りを軽視し、いわゆる商社の「カモ」となり収益性が悪化するか、以前のZOZOのようにプライベートブランド(PB)のノンデリ(納期遅れ)が頻発するトラブルに直面してしまう。こういう組織がPLM (Product lifecyle management)を導入し商社外しを行うと、いわゆる「設定」しかできないベンダーのカモになってしまい、あちこちで不具合が発生し、導入はしたが動いていないPLMが放置されているのも見た。
さらに、ブランド力が強い企業ゆえに陥りがちな罠もある。業界には、ブランド力が強ければ、キャッシュ・コンバージョン・サイクル(仕入れから現金回収までの日数)を長期化し、バランスシート上の現金がショートしたとしても、棚卸資産があれば、高い最終消化率を前提に、その三倍で現金化できる、という「常識」がある。そのため「自転車操業」が常態化し2020年のように、不測のパンデミックがおき店頭がいきなり閉鎖されると換金率が下がり、超優良企業が一気に倒産間際に陥るケースもある。
このように、メディアは一括りに「アパレル企業」というが、20年間、この業界の裏も表も見尽くしてきた私からしてみれば、個社ごとに全く違う産業のように、強みや弱みは異なっている。こうした事実を理解せず、さしたる強みもないアパレルを買収するも、リストラによる縮小均衡しか打ち手はない状況に陥り、「円安」という神風が吹いたとたんにアジアに叩き売ったり、金利要因による株価上昇局面を狙ってイグジットするなど、おおよそまともとは思えない金融論理がまかり通り、産業全体が毀損しているのも見てきた。
最も合理的に見えるユナイテッドアローズのブランド・ポートフォリオ
そうした中、今最も売上が期待できる駅ビル・ファッションビルに数多く出店する、ユナイテッドアローズのブランド・ポートフォリオの美しさと合理性について解説したい。ユナイテッドアローズの看板ブランドは、いうまでもなく、セレクト業態である「United Arrows」であり、「BEAUTY & YOUTH」だ。私も含め、多くの人は、このブランドに憧れているが、ミドル・プレミアムであり、高級品であるUnited Arrowsの服はおいそれと買えない。
したがって、多くの人は「United Arrowsの香り」がし、値頃感のあるPB「green label relaxing」を買うわけだ。Green labelは、TSI holdingsのNatural beauty basic、JunのRopeと並び、「OL御三家」と呼ばれ、ワーキングレディの定番となっている。最近は、よりファッション性を重視した、マッシュスタイルホールディングスのSnidelやFRAY ID、Mila Owenなどをして、「コンサバすぎる」というポジションに追いやられているも、昨今、新型コロナウイルスの増加にも関わらず経済の門戸を開いた結果、ワーキングレディの外出が増えて「御三家」の売上が戻りつつあるという。
いずれにせよ、話をユナイテッドアローズに戻せば、green label relaxingがユナイテッドアローズの収益の全てであり、green label relaxingなくして、ユナイテッドアローズは存続し得ないように思う。逆に言えば、セレクトショップ業態のUnited Arrowsは、広告塔、消費者の憧れと賭して君臨していることが大事で、ここで敢えてUnited Arrowsを利益体質にする必要はないともいえる。実際、United Arrowsのショップは日本に30店舗程度しかない。このUnited Arrowsを広告塔とした、ブランドポートフォリオ戦略は、Odette de Odile というレディースドレスシューズや、UNITED ARROWS & SONSなどにも活用されており、これらは、微妙に消費者の「所得」に応じて、展開されている。これに対し、多くのアパレルは、このようなブランド間シナジーを無視し、全てのブランドを同じ条件の損益基準で競争させ、それぞれの役割を明確にしていないことが多い。United Arrowsを頂点としたスプリンクラー効果(スプリンクラーが水を地面にまき散らすように、UAのブランド力を他のブランドに承継させている)は見事という他、表現のしようがない。