親はうまれてくる子どものIQを選べるかもしれません。
現在アメリカでは、体外受精によって得られた複数の受精卵の遺伝子を読み取り、優秀な受精卵で妊娠しようという試みがはじまっています。
1月18日に『Journal of Medical Ethics』に掲載された論文では、好ましくない遺伝子を持つ受精卵を特定して排除することの利点と危険性を啓蒙する倫理モデルが示されました。
倫理的に問題があるとされている遺伝子組み替え赤ちゃん(デザイナーベイビー)とは異なり、受精卵の選別には遺伝子操作は含まれていません。
しかし受精卵の意図的な選別と排除は、命に対する倫理観に疑問を抱かずにはいられないでしょう。
優れた子孫を望む人類やビジネスに歯止めをかけられるのでしょうか?
目次
実は、出産前の遺伝子診断は古くから行われてきた
全ての受精卵をランク付けする
実は、出産前の遺伝子診断は古くから行われてきた
出産前に子供の遺伝子を調べるという試みは、古くは1930年から行われてきました。
最も一般的なのは「羊水検査」として知られており、羊水に含まれる胎児の遺伝子を調べることで、ダウン症などの障害の有無を確かめられます。
そして両親たちは検査結果をもとに、胎児を堕胎するか妊娠を継続するかを決めることになります。
しかし遺伝学の進歩により、この遺伝診断を受精卵までさかのぼって実行可能な技術が開発されました。
この技術の基本となっているのはポリジーンスコアと呼ばれる遺伝子の「成績表」です。
知能をはじめとした人間の才能や身長、スタイルなどの身体的特徴は、単一の遺伝子によって決まるのではなく複数の遺伝子がかかわります。
ポリジーンスコアでは、これら複数の遺伝子を可能な限り全て調べることで、受精卵たちの各分野(健康や才能)のスコア(成績)を数値化できるのです。
そこで体外受精をビジネスとしているGenomicPrediction社は、ポリジーンスコアをもとに、既存の遺伝疾患(糖尿病・統合失調症・冠動脈疾患・乳がん・低身長症)に加えて精神障害や低IQ(75以下)の可能性がある受精卵を特定するサービスを開始しました。
両親たちは提示された成績表をみながら、どの受精卵を選ぶか検討可能となります。
しかしスコア化によって明らかになるのは、成績の下位にある受精卵だけではありませんでした。
全ての受精卵をランク付けする
これまでの多くの研究で、人間の特質における遺伝と環境の影響度が調べられてきました。
そのなかでもIQをはじめとする知能は、人間の様々な特質の中でも比較的多くの割合(60~80%)を遺伝子によって支配されています。
2018年に行われた研究では、学業成績にかかわる1000を超えるDNA領域が明らかになりました。
また同年に行われた遺伝子と大学進学を調べた研究では子供たちが将来進むことになる「大学の学力レベル」の57%が複数の遺伝子の影響下にあることが示されました。
この結果は、人間の知能にかかわる特質がポリジーンスコアで評価可能であることを示しています。
そのためGenomicPrediction社のCEOは、全ての受精卵のIQスコアをランク付けして、最も優れた受精卵を子宮に入れることも可能と述べています。
しかし受精卵の選択は、命にかかわる問題であり、安易な扱いはできません。
そこで今回、研究者たちは受精卵の選択において「幸福」を基準にする規制モデル(ウェルファリストモデル)を発表しました。
この規制モデルでは受精卵の選別を全面的に禁止したり、あるいは完全に自由化するのではなく、幸福につながる分野のみ、受精卵の選別を許可するというものです。
例えば遺伝性の疾患は不幸の要因と考えられるため、疾患をかかえた受精卵の情報提供は認められます。
ただ知能(IQ)の場合は異なります。
なぜなら現代において知能の高さは必ずしも幸福に繋がらないとされているからです。
そのため幸福を基準にした規制モデルでは、どの受精卵が高いIQスコアであるかを両親たちに教えることは禁じられます。
一方で、IQ85未満の人々は日常生活の多くの分野で苦しんでいることが数々の研究で示されているため、IQが85を下回ると予想される受精卵がある場合、その受精卵がどれかを教えてもらえるので排除することができます。
幸福を基準にした規制は、全面的な禁止と放任主義の間でバランスをとる方法になると、研究者たちは考えています。
ただ身長や容姿などの要素は、国や文化によって不幸とされる基準が異なるため、また別な議論が必要になるでしょう。