予算と財源論
ここまで必要性と効果について考察を行いましたが、それらを実現させるには財源問題についての議論が欠かせません。
確保できる予算、人々の労働意欲を損なわない金額、現行の社会保障支給額(主に年金)を鑑みると、”成人に月々1人7万円ほど(未成年は半額)”となります(老齢基礎年金/65,141円、障害基礎年金/1級81,427円+子の加算/2級65,141円+子の加算)。
この金額であれば、切り詰めない限りこれだけでの生活は難しく労働意欲の低下は防げますし、かといってブラック企業で休日を返上し低賃金労働を行う人は減るでしょう。
但し、介護など一部の社会福祉を必要としている層にとって、7万だけでは補えませんので、そこには臨機応変に対策が必要だと考えています。因みに厚生年金の削減はコンセンサスが得られないので、時間をかけての移行を想定する必要があります。
さて、次は予算や財源の数字を追ってみますが、こちらは各専門家の皆さんが既に書籍やメディアで行われていますので、ここでは”イメージができる程度”の簡単な丼勘定で示したいと思います。
少々、粗雑過ぎる単純計算ですが、イメージとしては概ねこういったところでしょうか。前述にもあるように、現行の社会保障費は代替することで約35兆円、税収に於いて毎年発生する”申告額との非違(追徴税額)”が国税庁の調査によると概ね7−11兆円が回収漏れになっていると言われています。これをデジタル管理に切り替えると、簡単に回収できるでしょう。そして、国民に”給付と引き換えに負ってもらう負担”は、医療費の一律3割負担と消費税の20%です。
他にも予防医療の義務化(健康診断や予防接種など)による医療費や介護費の削減、行政のデジタル化に伴う省人化や業務委託の中抜き削減、固定資産税の増額、雇用創出用公共事業の廃止、年金受給者の低下による負担軽減などを含めると、ベーシック・インカムは十二分に実現可能であり、持続可能な体制ではないでしょうか。
今回は、数字や財源の捻出方法は正確でありませんが、それよりも本稿では、”ベーシック・インカムも実現できる”というマインドになった上で、やるのか、やらないのかの議論を前に進めて頂ければ幸いだと思っています。
菅政権の政策方針は前政権を踏襲することとなるでしょう。その中で重要となってくるのは前述のような社会課題と、国際情勢への関わり方です。国際情勢は秩序への ”責任” と ”貢献” がテーマとなり、西側諸国の覇権国家である米国不在の国際社会でイニシアチブをどのように発揮するのかが鍵を握ります。
国内の社会課題は、止められない省人化と人口減少の波をどう乗りこなすのか。ICT企業の”ニューノーマル”は、ICT業界者以外にとっては輝かしさはなく、虚しく響いています。一部事業者の輝かしさだけでは、日本が内包する課題を乗り越えることはできません。新社会保証制度や人材の流動化、高利益率産業の再発見など泥臭く地道な改革が求められ、それこそが”ニューノーマル”の扉を開ける鍵となります。
これから私達は新政権の元”日出る国”として、不安を抱える社会情勢へ光が届く新たなグランドビジョンを描く必要があり、ベーシック・インカムは一つの前向きな挑戦になるのではないでしょうか。
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黒川 和嗣(くろかわ かづし) フリーライター
政治,経済,社会をテーマに執筆/神道研究家/都内イベント系ベンチャー企業で事業経営を担当後、独立し、”社会課題の総合研究所 勾玉総研”を運営
文・黒川 和嗣/提供元・アゴラ 言論プラットフォーム
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