先日、竹中平蔵氏のベーシックインカム論が様々な物議を醸しました。本稿では、なぜベーシック・インカムが日本に必要なのか、そして実現可能性はあるのかの2面から紐解いてみたいと思います。
”余剰人材”と”少子高齢化”がもたらす社会不安
先ず今般の社会課題で特筆すべきは”余剰人材”と”少子高齢化”です。余剰人材(就職困難者や非生産的低賃金労働者)に関しては、デジタル化の波と不況の煽りで世代を問わず就業難に陥る、若しくは所得が著しく減少することで生じると思われます。
現在は解雇規制によって非正規労働者が主な対象となっていますが、不況下での解雇規制が企業にとって”負債”となってしまうように、人材整理が滞りキャッシュがショートしてしまえば、倒産やリストラとして、正規雇用にも影響が及びます。
勿論、感染症由来の”新たな生活様式”なるものは長くは続かず、多くの場合は何事もなかったかのように消費も雇用も戻るでしょう。但し、デジタル化由来による省人化やESG投資由来の持続可能性(持続可能性の本質は脱消費経済であり、生産労働者の減少へと繋がります)など、余剰人材への力学は多元的な要素からなり、中期的には向き合う必要がある社会課題には変わりありません。
少子高齢化は社会保障費の負担が年々高くなる反面、消費経済が縮小し歳入の減少へと繋がっています。また労働人口も減少に向かい納税を背負う若年層の負担は増える一方でしょう。
菅政権が迎える日本の社会課題は、 “高齢化による若年層への負担” ”省人化による格差や貧困” と 如何にコストを削減し社会成長へ投資をするのか が重要な政策軸となる筈です。その解決策として、ベーシック・インカム政策は有力な打開案となる可能性を秘めています。
BI(ベーシック・インカム)
先月、ドイツで18歳以上の120名を対象に3年間月々15万円を支給する実証実験が発表されました。他にもケニアやフィンランドなど世界各国で実験的に行われています。その目的は貧困を減らし、犯罪抑制や公共衛生の向上、教育環境の充実など様々です。日本も同じく前述の通り、省人化や少子高齢化に伴い圧迫するコストを削減しつつ、社会全体の成長へ繋がる対策を講じなければなりません。
例えば、余剰人材は最低限の生活費を確保することにより、”学び直しの機会” “職業選択の自由” ”健康の維持” など、新たな挑戦や社会貢献を余裕のある状態で行うことができます。市場としても、解雇規制の緩和が可能となるので、”企業体制の健全化” “人材の流動性” “過酷労働環境の淘汰” “消費の促進”など、労働環境の改善や生産性の向上に寄与することができます。
また、消費経済ではなくなる社会に於いて、情報通信技術(ICT)関連は当然ながら、クリエイティビティの必要な芸術や文化、ブランドなど、”利益率(生産性)の高い産業や資産として価値が醸造する産業” を構築する必要があり、そのためにも最低限の生活を保証することで、非生産的な労働から生産性の高いサービス開発へ挑戦するきっかけを生むことができます。
これだけではありません。一極集中の是正、地方分散型などが謳われていますが、現在は地域毎で最低賃金に差があり、リモートが可能なICT産業などしか地方に移住するインセンティブがありません。しかし、全国一律でベーシック・インカムが支給されると物価の高い都市部より、物価の安い地方の方が圧倒的に”お得”ということになり、下手なインフラ工事などを行わずとも地方へ分散化が進みます。他にも、自殺率の低下、結婚や出産への意欲向上など多くの作用が期待されます。