筋トレで痩せる仕組みが判明しました。

ケンタッキー大学の研究者たちにより『FASEB Journal』に掲載された論文によれば、筋肉トレーニングを行うと、筋肉から「燃焼命令」が詰まった細胞の破片(小胞)が飛び出して、脂肪細胞に取り込まれることが判明したとのこと。

「燃焼命令」を受け取った脂肪細胞では、酸素を使った脂肪の燃焼が開始されます。

無酸素運動と言われている筋トレが、酸素を使う脂肪燃焼をどうやって開始させているかを具体的に解明したのは、今回の研究がはじめてです。

筋トレと脂肪燃焼にかかわる常識はどのように変化したのでしょうか?

目次
無酸素運動が酸素を使った脂肪燃焼を引き起こしている
無酸素運動の後に筋肉細胞は細胞膜に包まれた小さな袋を分泌していた

無酸素運動が酸素を使った脂肪燃焼を引き起こしている

筋トレが「無酸素運動なのに脂肪を燃やす」仕組みが明らかに
(画像=無酸素運動が酸素を使った脂肪燃焼を引き起こしている / Credit:Canva . ナゾロジー編集部、『ナゾロジー』より引用)

運動にはマラソンのような長時間にわたり大量の酸素と大量の脂肪を消費する有酸素運動と、重量挙げのような瞬間的に大きな力を発揮する酸素を使わない無酸素運動があると言われています。

無酸素運動は筋肉や血中に含まれる糖分をエネルギーにしているため、酸素を使った脂肪の燃焼には直接的にかかわらないとも考えられていました。

確かに、全力疾走を行っている時や、筋トレを行っている瞬間には、呼吸を止めていることが実感としてあると思います。

しかし多くの人々が体感しているように、無酸素運動の後には激しい呼吸・発汗・心拍数が増加、身体中の発熱といった「まるで有酸素運動を行っている最中のような状態」が現れます。

この現象は「アフターバーン」と呼ばれ、脂肪燃焼効果も確認されています。

しかし無酸素運動がどのようにして、休んでいる体に有酸素運動の最中ような状態(アフターバーン)を引き起こしているかは、謎でした。

ですが、このアフターバーン現象はとんでもない医学的価値を秘めているんです。

もしアフターバーンの仕組みを解明し再現できる「アフターバーン薬」が開発されれば、誰もが休みながらにして、体を有酸素運動の最中のような状態にでき、お手軽なダイエットが可能になる可能性があるからです。

そこで今回、ケンタッキー大学の研究者たちは、過負荷運動(筋トレ)が行われた直後のマウスの筋肉細胞で何が起きているかを集中的に観察しました。

アフターバーンが起きて体が有酸素運動状態になるからには、筋肉細胞から脂肪細胞に何らかの「燃焼命令」が発せられていると考えたからです。

すると、非常に興味深い現象が確認されました。

無酸素運動の後に筋肉細胞は細胞膜に包まれた小さな袋を分泌していた

筋トレが「無酸素運動なのに脂肪を燃やす」仕組みが明らかに
(画像=人間の筋肉を摘出して観察するわけにはいかないのでマウスで実験した / Credit:Canva . ナゾロジー編集部、『ナゾロジー』より引用)

無酸素運動を行った筋肉細胞に何が起きているのか?

研究者たちは謎を解明するためにマウスに筋力トレーニングを再現する過負荷運動を行わせ、筋肉細胞に起こる変化を観察しました。

筋トレが「無酸素運動なのに脂肪を燃やす」仕組みが明らかに
(画像=無酸素運動の後に筋肉細胞は細胞膜に包まれた小さな袋を分泌していた / Credit:Canva . ナゾロジー編集部、『ナゾロジー』より引用)

すると、過負荷運動を行った筋肉細胞から、細胞膜に包まれた小さな袋(小胞)が盛んに分泌されていることが判明。

また分泌された小胞の行先を追跡すると、脂肪細胞(白色)に取り込まれていることがわかりました。

さらに小胞を取り込んだ脂肪細胞では、なんと酸素を使った脂肪の分解が促進されていたのです。

この結果は、機械的な過負荷運動を行った筋肉細胞から発せられた小胞には、脂肪細胞に対して、有酸素運動のような脂肪の燃焼を行わせるための「命令書」が含まれていたことを示します。

また追加の研究により、小胞に含まれている命令書の正体が「miR-1」というタンパク質であり、受け取り手は脂肪細胞に存在する「Tfap2a」と呼ばれる調節遺伝子であると判明しました。

さらに小胞の分泌を阻害すると、脂肪分解に必要な遺伝子の働きが増加しなくなることも示されました。