培養された涙腺にも涙を流す能力があるようです。
3月16日に『Cell Stem Cell』に掲載された論文によれば、人工的に培養した涙腺に「感情に由来する涙」を流させることに成功したとのこと。
培養された涙腺(涙腺オルガノイド)には脳オルガノイドとの神経的な接続はありません。
なのに、いったいどうして感情に由来する涙を流せたのでしょうか?
目次
ヒトとマウスの涙腺を培養する
3種の異なる涙を流させる
ヒトとマウスの涙腺を培養する

近年の急速な臓器培養技術の進歩により、脳を含むさまざまな器官の人工的な培養が可能になってきました。
これら人工培養された器官は「オルガノイド」と呼ばれており、幹細胞を再プログラムし増殖させ、自然に三次元的な構造に組み上げることで形成されます。

今回、オランダのヒューブレヒト研究所の研究者たちはマウスおよびヒトの涙腺から抽出した「成体幹細胞」を培養し、1年かけてマウスとヒトの涙腺オルガノイドを作ることに成功しました。
成体幹細胞とはすでに身体の組織に存在していて、ある程度の分化能力を持っている細胞のことで、損傷組織の再生などにおいて新しい細胞を作る役割をもっています。
そのため、形成された涙腺オルガノイドは実際の涙腺を模倣した三次元的な構造を持っており、マウスやヒトの涙腺と同じ機能があると期待されます。
そこで研究者たちは、涙腺オルガノイドを実際に「泣かせて」みることにしました。
3種の異なる涙を流させる

私たちのの目に存在する涙腺は3種類の涙を流すことができます。
1つ目は、目を乾燥から保護するために潤いを与えるための涙。
2つ目は、物理的な接触刺激に反応して目を損傷から保護するために流される涙。
3つ目は、脳からの神経伝達物質によって引き起こされる、感情に起因する涙です。
そこで研究者たちは涙腺オルガノイドも3種の涙を流せるかどうかを確かめました。
1つ目の涙の確認はすぐにできました。
涙腺オルガノイドが入れられた培養皿は、常に分泌される「1つ目の涙」で濡れていたからです。
また「2つ目の涙」も、物理的な刺激を与えることで流させることに成功します。
ただ感情に起因する「3つ目の涙」を流させるには工夫が必要でした。
涙腺オルガノイドは脳と結合していないため、脳から泣くための信号を受け取れないからです。
そこで研究者たちは、人間が感情に起因する涙を流すときに、脳から涙腺に供給される神経伝達物質「ノルアドレナリン」を加えました。
もし涙腺オルガノイドに感情に反応して泣く能力があれば、ノルアドレナリンを加えることで涙を分泌するはずです。
実験を行った結果、涙腺オルガノイドはノルアドレナリンに反応して感情に起因する3つ目の涙を流したのです。
これらの結果は、培養された涙腺オルガノイドは涙腺のもつ3つの役割を正確に再現していることを示します。
また興味深いことに、原因の異なる涙は、成分が微妙に異なることが発見されました。
涙の成分の調整は、涙腺にある複数の分泌器官が異なる成分の涙を作り、原因に合わせて合成されることで作られます。
研究者たちは涙腺オルガノイドの性能に検証したあと、次に移植実験にとりかかりました。