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蛍光物質を紫外線シールドにする
未来の日焼け止めは暗闇で光るかもしれない
蛍光物質を紫外線シールドにする

クマムシは数々の極端な耐性を備えることで有名です。よって蛍光物質も耐性獲得に使用していると予想されていました。
そこで研究者らは、新種のクマムシから抽出した蛍光物質を水に溶かし、内部に紫外線耐性がない種のクマムシと、線虫と呼ばれるワームの一種を加え、紫外線を照射しました。
すると、蛍光物質溶液中の両方の動物が、致命的な紫外線に対する耐性を劇的に向上させたのです。
蛍光物質はクマムシ自身を有害な紫外線を吸収するシールドの役割を果たしているだけでなく、吸収したエネルギーを無害な青色の可視光として放出することで継続的な紫外線防御を可能にしていたのです。
蛍光物質を用いたエネルギーの吸収と放出は、循環型のシールドとも言えるでしょう。
ただ興味深いことに、この蛍光物質によるシールドには同じ新種でも個体間で大きな差がありました。
蛍光物質を多く生産し強く光る個体は紫外線に対して高い生存性(1時間照射に対して60%が30日以上生存)を示しましたが、蛍光物質が少ない個体は全て照射後、20日以内に死亡しました。
この事実は、蛍光物質によるシールド効果が、新種のクマムシにとっても個体差が出る程度に、新たに追加された防御手段であることを意味します。
未来の日焼け止めは暗闇で光るかもしれない

今回の研究により、新種のクマムシが蛍光物質を対紫外線シールドに利用していることが明らかになりました。
新種のクマムシの蛍光物質は吸収した紫外線のエネルギーを可視光域にある、青色の光として放出することで、再利用が可能になります。
研究者らは、新種のクマムシがこのような紫外線対策を行っていたのは、発見された場所にも関連していると考えています。
クマムシの多くはコケの周辺のジメジメした水気の多い場所に生息していますが、今回発見されたクマムシがいたコケは、比較的日当たりがよい場所に生えていました。
新種のクマムシが紫外線に対する防御を進化させたのは、インド南部の強い日差しに適応するためであった可能性もあるようです。
研究チームは、このクマムシの特殊な蛍光物質を日焼け止めをはじめとした紫外線対策のクリームなどに転用可能だと考えており、特許の出願を計画しているとのこと。
もしかしたら未来の日焼け止めには「クマムシ由来の紫外線保護成分配合」と書かれているかもしれません。
ただ唯一注意すべきは、この日焼け止めは吸収した紫外線のぶん、青く発光する点にあります。
浜辺で日光浴を楽しんだ人々が、日没後に青く光る人影となる光景は、若干のホラー成分を含むものになるでしょう。
参考文献
sciencenews
提供元・ナゾロジー
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