3. 実質値ではGDP成長、平均給与停滞
名目値の成長率では、日本だけ停滞が続いているのは明らかですね。
名目値はお金の単位で表現した経済指標です。
経済学では、物価が変動するため、物価の影響を排した実質値で比較するのが一般的なようです。
実質値は、金額ではなく、数量的な変化を表した指標という事になります。
まずは1人あたりGDPの実質成長率からみてみましょう。

OECD統計データ より、『アゴラ 言論プラットフォーム』より引用)
図4が1人あたりGDP(実質値)の成長率を比較したグラフです。
他の主要国は1.3~1.6倍で成長しているようです。
名目値とは異なり、日本は1.2倍とそれなりに右肩上がりで成長しています。金額ではなく数量的な経済規模が拡大している事を示しますね。
一方イタリアはリーマンショック以降横ばい傾向が続いています。

OECD統計データ より、『アゴラ 言論プラットフォーム』より引用)
図5が平均給与(実質値)の成長率です。
基本的に他国は右肩上がりで成長していますが、日本とイタリアは横ばいが続いています。
実質値で比較すると、日本は1人あたりGDPは成長していますが、平均給与は停滞しているという特徴があるようです。
他国は、両指標とも成長しています。
4. 相関図で見る日本経済の異変
日本経済は、実質値で見た場合に1人あたりGDPの成長と、平均給与の成長に乖離があります。
この特徴を明確にするために、相関図を作ってみました。

OECD統計データ より、『アゴラ 言論プラットフォーム』より引用)
図6が1人あたりGDP(実質値)と平均給与(実質値)の成長率についての相関図です。
1991年の数値を1.0として、2021年の数値の倍数として表現しています。
緩やかな正の相関があるように見えます。青の破線が両指標の成長率が1:1で一致する線です。
ドイツ、フランス、カナダ、イギリス、アメリカの主要国は、両指標の成長率がほぼ一致していますね。
日本、イタリア、メキシコ、スペインの4国は、1人あたりGDPは成長していますが、平均給与がほぼ成長なしの状態です。
今回は1人あたりGDPと平均給与について、名目値、実質値それぞれの成長率を比較し、最後に実質値の相関図にまとめてみました。
日本は名目値で見ると両指標とも停滞している特殊な状況です。実質値で見ると、1人あたりGDPはそれなりに成長していますが、平均給与は停滞が続いています。
このような国は、日本を含め先進国で4国程度ですので、やはり特殊な状況と言えそうです。
1人あたりGDPは国民の平均的な生産性と言えますね。実質値は数量的な変化を見る指標ですので、数量的な生産性は向上していても、労働者への分配は増えていないという事になります。以前よりたくさん生産しているのに、働く人のお給料で買えるものが増えていないという状況ですね。
少なくとも実質GDPが成長している事だけをもって経済が成長しているとは言い切れないように思います。
他国同様まずは名目値の成長があり、物価成長分だけ目減りして実質値が成長するという事が普通だと思います。1人あたりGDPだけでなく、給与水準も上がっているかどうかも重要ですね。
皆さんはどのように考えますか?
編集部より:この記事は株式会社小川製作所 小川製作所ブログ 2022年7月29日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方は「小川製作所ブログ:日本の経済統計と転換点」をご覧ください。
文・小川製作所/提供元・アゴラ 言論プラットフォーム
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