遺伝子を組み込む「遺伝子治療」が光をもたらしました。
10月22日に『Nature Gene Therapy』に掲載された論文によれば、目に新たな遺伝子を組み込むことで、盲目だったマウスが視力を回復したとのこと。
同技術を人間に用いる臨床試験も今年中に始まる予定であり、失明した多くの人々が再び光を取り戻す日が近いかもしれません。
しかし、研究者たちはいったいどんな遺伝子を、どうやって目に組み込んだのでしょうか?
目次
遺伝子治療はウイルス感染の仕組みを利用している
光刺激の出発点を変える
遺伝子治療はウイルス感染の仕組みを利用している

近年の急速な技術発達により、体の特定部分の遺伝子を書き換える「遺伝子治療」が現実の医療として広がりはじめています。
遺伝子治療では、体外で編集された優れた機能を持つ遺伝子を、患者の遺伝子に組み込むことで、様々な疾患を治療することが可能です。
組み込みの鍵になるのは、ヒトにとって無害なウイルス(アデノ随伴ウイルス)です。
このウイルスは自分の遺伝子を人間の遺伝子に紛れ込ませる能力があることが知られています。
そのためウイルスの本来の遺伝子の代わりに、薬の働きをする優れた遺伝子をウイルスの中に入れておけば「感染」によって、ヒトは後天的に、優れた遺伝子を獲得することが可能になります。
光刺激の出発点を変える

今回の実験で使われた盲目マウスは、視細胞(錯体: さくたい、桿体: かんたい)が病変しており、光受容体が失われていました。
視細胞にある光受容体は目が光を最初に感知するために使われており、この1番目の光感知のポイントの喪失が必然的に盲目へとつながります。
そのため既存の遺伝子治療は、いかにして光受容体の機能を回復させるかに集中していました。
ですが今回、研究者たちはあえてこの1番目のポイントを無視しました。
光受容体が失われていても、光感知の2番目のポイントが反応してくれるように遺伝子を書き換えれば問題ないと考えたからです。
研究者たちはこの2番目のポイントとして双極細胞とよばれる細胞を選びました。
双極細胞は視細胞からの刺激を脳へと続く神経へ伝達する仲介役として知られています。盲目マウスは視細胞を失っていましたが、幸いにもこの双極細胞は無傷のままでした。
もしこの双極細胞に光受容体に似た光を感知する遺伝子を組み込むことができれば、光受容体に依存せずに、光の刺激を脳に送ることができるはずです。