帝王切開は何らかの事情により通常の分娩ができず、手術で子宮を切開し直接胎児を取り出す出産方法です。
この帝王切開で生まれた赤ちゃんは、膣を経由していないために母親の微生物叢に触れておらず免疫系の発達に悪影響が出ると言う意見があります。
そのため、母親の微生物叢を帝王切開の赤ちゃんに与える方法がいくつか研究されていますが、10月1日の科学雑誌『Cell』に発表された論文では、なんと母親の希釈した糞便を与えるという方法が報告されています。
ちょっと心情的には嫌な気もしますが、これは経膣分娩で生まれた赤ちゃんと似た微生物叢が構築できる有望な手法となるかもしれません。
目次
帝王切開で生まれる赤ちゃんのリスク
赤ちゃんはどうやって微生物叢を獲得しているのか?
帝王切開で生まれる赤ちゃんのリスク

通常赤ちゃんは母親の膣内を経由してこの世に誕生します。
このとき、無菌状態の赤ちゃんは初めて微生物にさらされ、免疫系に重要な微生物叢を獲得するきっかけを得るのだと考えられています。
このため、子宮切開で直接取り出された赤ちゃんは、経膣分娩で生まれた赤ちゃんとは腸内などの微生物叢が異なっています。
これは、帝王切開で生まれた赤ちゃんの喘息やアレルギーの発症が、経膣分娩の赤ちゃんよりわずかに高いという報告と一致するものです。
そこでこれまでの研究では、帝王切開で取り出された赤ちゃんの肌や口を母親の膣液で拭うという方法が試されてきましたが、この方法では微生物叢を経膣分娩の赤ちゃんと同一にできませんでした。
微生物叢が異なるということは、免疫系がアレルゲンに対応する反応も異なるということで、あまり好ましいことではありません。
なんとか経膣分娩の赤ちゃんと帝王切開の赤ちゃんの微生物叢を一致させる方法が必要なのです。
赤ちゃんはどうやって微生物叢を獲得しているのか?

そこで今回、フィンランドのヘルシンキ大学の研究チームが着目したのが母親の糞便です。
女性は陣痛中に排便してしまうことが多く、ここで赤ちゃんは糞便を通して母親の腸内細菌を受け取り、自身の微生物叢を構築しているのではないかと考えたのです。
ここから、今回の母親の希釈した糞便を赤ちゃんに与えるという研究がスタートしました。
研究では30人近い母親の参加者を募りました。ここから抗生物質の利用や潜在的に危険な微生物の有無、禁忌症状などの判別を慎重に行い、最終的に7人の母親で実験を行うことになりました。
母親の糞便サンプルは実験の3週間前に採取され、危険がないことを確認の上、専門家が希釈の処理を行い、赤ちゃんの授乳時に母乳に数滴混ぜて与えられました。
赤ちゃんは合併症などが起こらないか慎重に検査を行われます。出生時と検査入院の2日後、1週間後、2週間後、3週間後、そして3カ月後に経過の検査が行われました。
こうして観察を行った結果、生後3カ月までに今回の処置を受けた帝王切開の赤ちゃんが、通常の経膣分娩で生まれた赤ちゃんと類似した微生物叢を獲得していると確認されたのです。