流通技術の発達により、いまや鮮魚は全国の産地から各地に届けられる時代となりました。しかしその一方で、魚たちはそれぞれの土地で異なる呼ばれ方をされることも多いです。そしてそんな「地方名」の中には、みだりに口にできないような「キケンなもの」が少なくありません。
(アイキャッチ画像提供:PhotoAC)
魚の地方名と標準和名
東京都の企業が運営する「産地と食品スーパーの取引アプリ」というものがあります。これは、価格や入荷量などが日々大きく変動する生鮮食品を安定的に販売するために、産地と小売業者とを直接的にリンクさせることが狙いのアプリです。
その運営企業がこのたび、そのアプリに新しく搭載した「とある機能」が話題になっています。それは、魚の「地方名」と「標準和名」とを、自動で変換してくれるというもの。この機能は、魚の呼び名の違いによる水産流通の障害を解消するのが目的で設計されました。
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同アプリ内で出品される魚介商品には今後、標準和名と地方名が併記されるようになります。これにより、売り手である産地事業者が地方名で商品を出品しても、食品スーパーなどの買い手は標準和名や別の地方名で検索することが可能になります。
同社ではこの機能を搭載するために、地方の漁労者への話の聞き取りや、書籍・インターネットを通して日本全国の魚の呼び名をリサーチし、独自のデータベースを作成したといいます。(『チヌ→クロダイ、カサゴ→ボッカ──魚の「地方名」と「標準和名」を自動変換 産地と食品スーパーの取引アプリに新機能』IT MEDIA NEWS 2021.6.9)
魚の地方名が流通上大事なワケ
この機能を追加した理由について、担当者は「魚のプロでも魚の名前が分からないことがあるから」と説明します。たとえば標準和名「クロダイ」は、関西では「チヌ」とよばれているのですが、関東の取引先にはチヌと呼ばれる魚が何か分からず、トラブルを引き起こす場合があったのだそう。
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南北に長い日本では、ひとつの魚がたくさんの地方名を持つ例は多いです。そして、鮮魚担当者の知識だけでそのすべてを網羅するのはまず不可能だといえます。それに加え、地方の漁労者はその地域の名称を使うことが多く、自分が漁獲した魚に、自分たちの呼び名とは別に標準和名が存在することすら知らないというのも普通です。
スムーズな取引のために、このようなデータベースの存在と運用は非常に役立つと思われます。