蜜入りリンゴの謎が解明されました。

8月3日に愛媛大学の研究者たちにより『Horticulture Research』に掲載された論文によれば、蜜入りリンゴができる細胞レベルでの仕組みの解明に、世界ではじめて成功したとのこと。

蜜入りリンゴは薫り高く、人気がある高付加価値なリンゴとして知られています。

しかし肝心の「蜜」の部分だけを食べたことがある人は、蜜自体は薄味で水っぽいことに気づいたかもしれません。

今回の研究では、蜜が薄味な理由だけでなく、どのようにして作られなぜ透明度が高いのかといった、長年の疑問に答えるものとなります。

リンゴの蜜には、いったいどんな秘密が隠されていたのでしょうか?

目次
蜜の部分が意外に薄味な理由
蜜の価値は甘さよりも香りと見た目にある

蜜の部分が意外に薄味な理由

世界初「リンゴの蜜」ができる仕組みを細胞レベルで明らかに
(画像=「ふじ」のような品種は多くの蜜の部分を含んでいる人気品種である / Credit:Canva . ナゾロジー編集部、『ナゾロジー』より引用)

蜜入りリンゴは、普通のリンゴに比べて香りが強く、高価なリンゴとして知られています。

しかし研究対象としての「蜜」への関心度は世界的にみても高くありませんでした。

そのため細胞レベルでの、蜜形成の仕組みを調べた研究は存在せず、蜜の部分で何が起きているかは、謎につつまれていたのです。

そこで愛媛大学の研究者たちは、細胞の水の動きとさまざまな成分を同時に計測可能な特殊な装置と2種類の浸透圧計をを用いて、蜜部分の分析を行いました。

結果、通常のリンゴ果実は、中心部のほうが外延部よりも細胞内部の水の圧力(膨圧)が高いのですが、蜜入りとなるリンゴではこの関係が逆(内側の水圧が低く外側が高い)となっていたと判明しました。

世界初「リンゴの蜜」ができる仕組みを細胞レベルで明らかに
(画像=蜜の部分が意外に薄味なのは外部から多くの水分が入り込み甘味が薄れているから / Credit:愛媛大学、『ナゾロジー』より引用)

そのため蜜入りとなるリンゴの場合、時間がたつにつれて、外部から中心部へ水が流れ込んでいました。

結果として、蜜部分の甘さは水で薄められて低くなってしまいます。

蜂蜜のような甘さを期待して、蜜の部分だけを食べた経験がある人ならば、蜜部分が意外に薄味で水っぽいという感想を持ったと思いますが、科学的にも正しい評価だったわけです。

なお英語でも、蜜入り部分のことを「ウォーターコア(水の核)」と呼んでいます。

では蜜の部分に価値があると考えるのは、単なる思い込みだったのでしょうか?

蜜の価値は甘さよりも香りと見た目にある

世界初「リンゴの蜜」ができる仕組みを細胞レベルで明らかに
(画像=蜜入りリンゴは薫り高い / Credit:Canva . ナゾロジー編集部、『ナゾロジー』より引用)

蜜の部分に感じていた憧れは、思い込みだったのか?

答えはNOと言えるでしょう。

味こそ薄味な蜜部分ですが、香りに関しては非常に優れていることが明らかになりました。

水が集まってくると同時に、蜜の部分にある細胞内部では発酵が進み、アルコール類を主成分とする揮発性の高い物質が高濃度に集積していたのです。

つまり蜜がある所は、味は薄いものの、非常に香り高い場所だったのです。

また水や香り高いアルコール類が集まってきた結果、蜜部分では細胞間の空気層が液体で満たされて光の乱反射が抑えられ、透明度が高くなっていることが明らかになりました。

もし蜜の部分を料理に使うことがあるならば、香り高さと透明度からくる美しさは、覚えておいてもいいかもしれません。