遺産を引き継ぐと、相続人は遺産総額に応じた相続税を支払います。では各法定相続人の相続税額はどのように計算するのでしょうか? 本記事では遺産総額から税金を算出する流れや、宅地などを相続した際に活用できる特例について解説します。

目次
遺産相続で発生する相続税
 ・相続税は一定の額を超えた場合のみ発生
 ・相続と生前贈与、どちらがよいか?
 ・相続税の計算式
相続税の計算の準備
 ・遺産総額の把握
 ・法定相続人の把握
 ・課税遺産総額を算出

遺産相続で発生する相続税

遺産相続の税金を計算する流れを解説。知っておきたい特例も
(画像=『RENOSYマガジン』より引用)

「遺産相続」とは、被相続人(亡くなった人)の財産を相続人が引き継ぐことです。相続人には「相続税」の納税義務が課せられるため、生前から家族・親族内で相続について話し合っておく必要があるでしょう。

相続税は一定の額を超えた場合のみ発生

被相続人から、現金や不動産、有価証券などの財産を受け継いだ場合、相続人は受け取った財産額に応じた相続税を納めなければなりません。相続税には、相続した財産の一部を税金として国に納め、社会のために広く役立てるという目的があります。

ただ、財産を相続したからといって、すべてのケースで相続税が発生するわけではありません。相続税には、一定の金額までは相続税がかからない「基礎控除額」が設けられています。

基礎控除額=3,000万円+(600万円×法定相続人の数)

法定相続人が1人のみの場合、基礎控除額は3,600万円です。3人の場合は、3,000万円+(600万円×3人)となり、4,800万円となる計算です。この場合、4,800万円を超えた部分にのみ、相続税が課税されます。

相続と生前贈与、どちらがよいか?

財産を子どもや孫に残す方法には、「相続」と「生前贈与」の2パターンがあります。生前贈与では「贈与税」が課税されますが、相続税と同様に一定の基礎控除が設けられています。

贈与税の課税方法には「暦年課税」と「相続時精算課税」があり、後者は一定の条件を満たした場合にのみ選択が可能です。

暦年課税とは、1月1日~12月31日に贈与された財産の合計額に応じて課税する方式で、年間110万円の基礎控除があります。つまり、基礎控除の範囲内で毎年少しずつ贈与を行えば、贈与税を納めずに済む可能性があるのです。ただし、継続的・計画的な贈与と判断された場合、基礎控除額を超えていなくても暦年贈与が認められませんので注意が必要です。

なお、「令和4年度税制改正の大綱」では、相続税と贈与税の一本化へ本格的な検討を進めると明示されており、将来的には暦年贈与した財産にも相続税が課税される可能性があります。

贈与と相続のどちらが税金を低く抑えられるかは、個々の事情によって異なります。基礎控除額や税率だけを見て単純に比較できるものではないため、税金がいくらかかるのかを実際に計算してみることが大切でしょう。

相続税の計算式

相続税の計算方法には、被相続人の遺産総額に対して課税する「遺産課税方式」と、各相続人が取得した遺産額に対して課税をする「遺産取得課税方式」があります。

日本では遺産取得課税方式に基づく「法定相続分課税方式」という特殊な方式を採用しており、遺産総額に税率を掛けて算出するだけの単純なものではありません。この方式による税額算出の大まかな流れは以下の通りです。

  • 正味の遺産から「課税遺産総額」を算出する
  • 相続人が全員で納める「相続税の総額」を算出する
  • 相続税の総額を「実際の相続分」で按分して各自の納税額を出す

相続税は現金での一括納付が原則です。現金額が不足する場合は、不動産などの売却で納税資金を確保する必要があるため、できるだけ早いうちに概算額を把握しておきましょう。

相続税の計算の準備

遺産相続の税金を計算する流れを解説。知っておきたい特例も
(画像=『RENOSYマガジン』より引用)

相続税の計算にあたり、「課税遺産総額」を算出するのが最初のステップです。そのためには「遺産額」と「法定相続人」を正確に把握する必要があります。

遺産総額の把握

まずは故人の「遺産額」を把握しましょう。遺産額とは、相続・遺贈で得た財産(遺産総額+相続時精算課税の適用を受ける財産の価額)から「債務」「葬儀費用」「非課税財産」を差し引いたものです。

ここでいう非課税財産とは、「日常礼拝をしている物(墓地・墓石・仏壇など)」や「公益目的の事業に使われることが確実なもの」「非課税枠内で相続人が受け取る死亡保険金・退職金」などを指します。

遺産額を把握したあとは、遺産額に「相続開始前3年以内の贈与財産」を加え「正味の遺産額」を算出しましょう。正味の遺産額が基礎控除額以下の場合、相続税はかかりません。

法定相続人の把握

「法定相続人」とは、民法で規定された被相続人の財産を相続できる人です。遺言書がない限りは、法定相続人の間で遺産を分割します。

法定相続人に該当するのは、「配偶者」と「血族」です。故人の配偶者は必ず相続人になり、配偶者以外の血族は以下の順序で相続人になります。また、内縁関係の人は相続人に含まれません。

  • 第1順位:死亡した人の子ども。子どもがすでに死亡している場合、その子どもの直系卑属(子や孫など)
  • 第2順位:死亡した人の父母・祖父母など(直系尊属)
  • 第3順位:死亡した人の兄弟姉妹。兄弟姉妹がすでに死亡している場合、その人の子ども(被相続人の傍系卑属)

法定相続人の数が多ければ、その分、控除額も大きくなります。

課税遺産総額を算出

正味の遺産額と法定相続人の数を把握したら、「課税遺産総額」を求めます。課税遺産総額とは、相続税の課税対象となる遺産額のことです。

  • 課税遺産総額=正味の遺産額-基礎控除額
  • 基礎控除額=3,000万円+(600万円×法定相続人の数)

例えば正味の遺産総額が6,000万円、法定相続人が2人の場合、基礎控除額は4,200万円です。したがって、課税遺産総額は1,800万円ということになります。