宇宙の探索に欠かすことのできない宇宙服。

しかし、これは服と表現されているものの、実質ミニチュア宇宙船と表現するべき技術の結晶です。

人間を過酷な宇宙の環境から守る生命維持システム、宇宙服は一体どのような歴史を経て完成されたのでしょうか?

今回は、そんな宇宙服の歴史について見ていきます。

目次
宇宙服が目指すもの
宇宙服の歴史

宇宙服が目指すもの

宇宙服は、作られた時代やタイプが異なろうとも、すべて同じ目的を持っています。

それはすなわり、遠征中に遭遇するあらゆる危害から宇宙飛行士を保護するということです。

宇宙服はかなりかさばるデザインで、正直着心地は悪そうに見えます。

実際、宇宙飛行士は宇宙服を不快だと報告することが多いようです。しかし、残念ながら、彼らに他の選択肢はありません。

科学の粋を尽くしたミニチュア宇宙船「宇宙服の歴史」
(画像=宇宙服が背負っているリュックのようなものの中身 / Credit:NASA、『ナゾロジー』より引用)

宇宙服が内部の人間を守らなければならない対象は非常に多岐にわたります。

まず温度です。宇宙の温度は-156℃を下回る場合があり、また逆に156℃まで熱くなる場合もあります。

宇宙服はこの極端な温度変化から内部の人間を保護しなければならないのです。

さらに塵や破片、放射線に対しても耐性を保つ必要があります。

また、内部の気圧も宇宙飛行士に適切な状態へ調整する必要があり、水と酸素も提供しなければなりません。

これが達成されて初めて、宇宙飛行士は完全な真空の宇宙で活動することができるのです。

宇宙服の歴史

宇宙服という概念はそもそもどこからはじまるのでしょう?

これはH・G・ウェルズと並ぶ、初期のSF作家ギャレット・P・サービスの小説「エジソンの火星征服」から広まったといわれています。

「エジソンの火星征服」は、ウェルズの「宇宙戦争」の続編として書かれたもので、発明王トーマス・エジソンが宇宙船を開発して、火星に乗り込むというストーリーです。

この作品で登場した宇宙服という概念は、その後1930年代に漫画化された際に、さらに深く考察されることになります。

科学の粋を尽くしたミニチュア宇宙船「宇宙服の歴史」
(画像=ギャレット・P・サービス(左)。「エジソンの火星征服」の挿絵(右)。 / Credit:Wikipedia,technovelgy.com、『ナゾロジー』より引用)

本物の宇宙服の歴史は、高高度航空機のパイロットを守る「全与圧服」の設計から始まります。

航空機エンジンが進歩を遂げると、パイロットに危険をもたらす高度まで飛行できるようになりました。

4万3000フィートの上空では、気温は-54℃まで下がり、肺は意識を維持する十分な酸素を取り込むこともできなくなります。

1931年、最初の全与圧服「CH-1」が、ソ連の技術者シアン・ダウンズ(Ciann Downes)によって設計されます。

これはヘルメットを備えたシンプルな与圧服で、関節を曲げるための機構が存在していなかったため、加圧時に腕を曲げる動作が非常に困難だったといいます。

実用的な与圧服は、1934年米国のタイヤメーカーBFグッドリッチ社が飛行士ワイリー・ポストの世界高度記録突破を支援した際に開発しました。

この与圧服を開発したのは、BFグッドリッチの技術者ラッセル・コリーでした。

彼は後にNASAにも勤め、世界で2番目(米国では初)の宇宙飛行士アラン・シェパードを宇宙へ送るマーキュリー計画にも関わっています。

初期の与圧服は、1層目の長い下着と空気圧を保つゴム製の中間層、パラシュート生地を使った外層という3層構造になっていました。

最終的に飛行士のポストは、こうした与圧服を使って、高度4万7000フィートまで到達したといいます。

科学の粋を尽くしたミニチュア宇宙船「宇宙服の歴史」
(画像=与圧服を着たワイリー・ポスト / Credit:en.wikipedia、『ナゾロジー』より引用)

現代に似た雰囲気の本格的な与圧服を開発したのは、1946年、米軍が開発した「ヘンリースーツ」です。

これはスーツのヘルメットと手袋を取り付けるための首や手首に金属製ループが備わっていて、完全に加圧された人の形をした宇宙服でした。

科学の粋を尽くしたミニチュア宇宙船「宇宙服の歴史」
(画像=宇宙服50周年を祝ってNASAで特集された初期の与圧服 / Credit:NASA Photo、『ナゾロジー』より引用)

世界で初めて宇宙で使用された宇宙服は、当然、人類で初めて宇宙へいったソ連のユーリイ・ガガーリンが着用した「SK-1宇宙服」です。

SKというシリーズ名は、ロシア語の「СкафандрКосмический(宇宙用ダイビングスーツ)」の頭文字から来ています。

科学の粋を尽くしたミニチュア宇宙船「宇宙服の歴史」
(画像=ガガーリンの着用したSK-1宇宙服 / Credit:Wikipedia、『ナゾロジー』より引用)

この宇宙服の重量は20kgでした。

そしてついに、人類は宇宙船の外の過酷な宇宙の環境でも活動することを目指します。

これを実現させたのは、50年前月面に着陸したときニール・アームストロングをはじめ、アポロ計画の宇宙飛行士たちが着用していた「xEMU宇宙服」です。

科学の粋を尽くしたミニチュア宇宙船「宇宙服の歴史」
(画像=ニール・アームストロングが月面で着用していた宇宙服 / Credit: NASA、『ナゾロジー』より引用)