量子テレポーテーションの技術が大幅に進歩しました。

12月4日に『PRX Quantum』に掲載された論文によれば、44kmもの距離の間で量子情報をテレポートさせることに成功したとのこと。

量子テレポーテーションの可能な距離が伸びれば、既存のインターネットを量子インターネットへとバージョンアップさせることが可能です。

しかし量子テレポーテーションとは実際のところ、どんな技術なのでしょうか?

目次
量子テレポーテーションの基礎には量子の「もつれ」がある
量子テレポーテーションとは何か?

量子テレポーテーションの基礎には量子の「もつれ」がある

「量子テレポーテーション」を44kmもの長距離で達成! 量子インターネット実現に近づく
(画像=量子のもつれのお陰で命が助かるケースもある / Credit:Canva、『ナゾロジー』より引用)

量子テレポーテーションを理解するにあたって必要となる概念は、量子のもつれです。

もつれ関係にある2つの量子(例えば光子)は、一方が縦方向の振動である場合、もう片方は必ず横方向の振動になる性質を持ちます。

そのため、もつれ状態にある2つの量子を離れた場所に置いた場合、観察によって一方の量子の状態を確認すれば、もう一方の量子の状態が瞬時にわかります。

といっても、なんだか現実離れしているようで、話がはっきりしませんよね。

そこで、簡単な例で説明します。

まずAさんの家と核ミサイル施設に、それぞれもつれ関係にある光子1と光子2を設置します。

光子1と光子2はもつれの関係にあるので、一方が縦揺れしていた場合、他方は必ず横揺れしています。

核ミサイルの発射システムは12時になると施設内の光子を確認し、縦揺れだった場合は核ミサイルをAさんの家に向けて発射します。

一方、Aさんは同じ日の昼の12時になる5分前に自分の家にある光子の状態を確認するとします。

もしAさんの家の光子が縦に揺れていれば、もつれ関係にある核ミサイル施設の光子の揺れが横に揺れていることが確定するためAさんは逃げる必要がなくなります。

しかしAさんの家の光子が横に揺れていた場合、核ミサイル施設の光子は縦に揺れていることが確定し、核ミサイルが発射されるためAさんは逃げる必要があります。

以上が、量子世界にある不思議なもつれの例になります。

光子1と光子2には何の伝達能力もありませんが、片方の状態が決まるともう片方の状態が自動的に決定するのです。

なぜ? と疑問に思うかもしれませんが、残念ながら答えはありません。

もつれの片方の情報がもう片方の状態を決定するというのは、私たちが住む宇宙そのものの性質なのです。

量子テレポーテーションとは何か?

「量子テレポーテーション」を44kmもの長距離で達成! 量子インターネット実現に近づく
(画像=今回の長距離量子テレポーテーションは既存のネットに使われている光ファイバーが用いられた / Credit:フェルミラボ、『ナゾロジー』より引用)

テレポーテーションと名前はついていますが、量子テレポーテーションはSF的な瞬間移動があるわけではありません。

量子テレポーテーションは量子のもつれを利用することで、特定の場所にある量子の情報を、別の場所に送って再現するする技術です。

量子にはシリアル番号など個性を記録するものが存在しないため、条件を与えて再現することで、まるでテレポートしたかのように同じ量子の状態を作ることができるのです。

しかし距離を離せば離すほど、肝心の「もつれ」状態の維持はどんどん困難になっていきます。

そのため長距離の量子テレポーテーションの実現は困難を極めていました。

しかし今回、カリフォルニア工科大学の研究者たちは、2つの光子のもつれを光ファイバーを介して44kmにおよび維持し、量子テレポーテーションを行うことに成功しました。

さらに伝達の精度を90%にまで上げることに成功します。

既存の量子テレポーテーションでは、より長い距離でも成功していますが、精度はずっと低いものとなっていました。