物理学の常識が崩壊の危機にあります。
CERNが『arXiv』に掲載した最新の論文によると、現代の物理学において長らく存在すると考えられている超対称性の粒子が、いかなる条件でも全く観察されなかったとのこと。
出現するハズの条件を完璧にそろえても、全く検出されないという事実は、超対称性理論そのものの正当性を疑わせます。
現代物理学を支える理論が間違いだった場合、いったい何が起こるのでしょうか?
事件の当人である素粒子たち
超対称性の話を理解するには、まず素粒子が何かを知らなければなりません。
というと、なにやら難しそうな雰囲気を感じるかもしれませんが、内容は極めてシンプル。
結論から言うと
「私たちの宇宙」=「物を作る粒」+「力をつたえる粒」
という簡単な足し算が元になります(ヒッグス粒子は力をつたえる粒子の仲間で質量を作っています)。
例えば地球と太陽の場合。
地球と太陽は「物を作る粒」の巨大な塊です。
しかし「物を作る粒」を集めただけでは、地球は太陽の周りをまわってくれません。
地球が一定の距離をとって太陽の周りをまわるには「力をつたえる粒」(この場合は重力)が必要になるのです。
具体例を地球と太陽ではなく、磁石と鉄、電池と電球にしても
「私たちの宇宙」=「物を作る粒」+「力をつたえる粒」
は成り立ちます。
実際には「物を作る粒」と「力をつたえる粒」には上の図のように、それぞれ複数種類が存在します。
しかし今回は気にする必要はありません。
重要なのはこれらの粒たちに「裏の顔」がある…と超対称性理論が考えていた点にあります。
超対称性とは何か?
超対称性理論とは「物をつくる粒」と「力をつたえる粒」に、それぞれソックリな「裏の顔」が存在するとする理論です。
理論の名前となった超対称の部分も、表の顔に対して鏡合わせのような裏の顔が存在し「対称性」があることに由来します。
対象となった裏の顔の粒子たちは「物をつくる粒子」が「力をつたえる粒子」の属性にチェンジし、「力をつたえる粒子」も同様に「物をつくる粒子」になり、真逆の性質を持つようになっています。
しかし私たちの身の回りには、超対称性の粒子はみられません。
超対称性理論はこの点も説明しています。
宇宙がうまれた直後、非常に高エネルギーの状態では、表の顔である「物を作る粒」と「力をつたえる粒」とそれと超対称になる裏の「物を作る粒」と「力をつたえる粒」の全てが存在していました。
ですが時間が過ぎ宇宙が冷えてくると「対称性の破れ」と言われる現象が起き、裏の超対称性粒子は全て消えてしまった(反物質と話が似ているが超対称性粒子は反物質ではない)のです。
以上が、超対称性理論の基本になります。
なので超対称性理論が正しいかを調べるには、原理的には、宇宙がうまれた直後の高エネルギー状態(光の速度で粒子がぶつかる世界)を再現し、実際に裏の超対称性粒子が生じるかを確かめるのが一番です。
問題は、超対称性理論が発表された当時、宇宙誕生直後の様子を再現する方法がなかったことです。
そこで人類はCERN(セルン)と呼ばれる組織を作り、大型衝突加速器(LHC)を建設しました。
大型衝突加速器は粒子を光の速度まで加速し、衝突させることで初期宇宙を再現します。
しかし、いくら装置内部で初期宇宙の様子を再現しても(光速付近で衝突を繰り返しても)、超対称性粒子(裏の顔)は現れませんでした。
出力を上げ、条件を工夫し、試行回数を重ねても、結果は「0」「ナシ」「ヌル」でした。
こうなると、結論は一つしかありません。
長年に渡り物理学の常識と考えられてきた超対称性理論が全て、あるいは少なくとも一部に、間違いがあったのです。