「オマハの賢人」と呼ばれる米保険・投資会社バークシャー・ハサウェイのウォーレン・バフェット最高経営責任者(CEO)が2月に、丹精込めて書き上げた16ページにも及ぶ「株主への書簡」を公開した。

毎年恒例の行事だが、読むのは株主ばかりではない。世界中のあらゆる投資家たちが隅から隅まで読み込んで、お金を増やす秘訣を探し求める。過去の「株主への書簡」は、一般投資家向けにまとめられて本として出版されているほか、2016年2月には米オークションサイトのeBay で、希少な1980年の「株主への書簡」が売りに出され、2000ドル(約21万3000円)もの値がついた。

さて、今年の手紙でバフェット氏は、どのようなメッセージを伝えようとしたのだろうか。米株式が「トランプ相場」でイケイケであった2017年を振り返り、「割安で仕入れる」得意のバリュー投資や買収の機会が減ったと嘆くのが目を引く。

だが、有り余る保有現金の有効な使途を求めて、今年はバークシャー・ハサウェイが大きな企業買収に踏み出すと思わせる、気になる記述もある。

さらに、移ろう市場環境のなかで平常心を保つことの大切さを説くくだりは、多くの投資家に勇気を与え、どのような場面にも使える教訓となっている。今年の「投資家への手紙」からは何が学べるのか、読み解いてみよう。

困ってしまった「投資の神様」 何が問題?

バフェット氏は「投資の神様」と崇められる存在であり、大きな失敗を犯しつつも、過去の難局を驚異的なリターンで乗り切ってきた。彼の前では、困難も楽しい投資のチャンスに変わってしまうかのようだ。

だが、今年の「投資家への手紙」は少し違った。バフェット氏が困ってしまった様子がうかがえるからである。その原因は、トランプ米大統領の就任で2017年に上げ続けた「トランプ相場」にある。株価が上がれば、優良企業の株式を大量保有するバフェット氏は大いに儲かる。なぜ、それが問題なのだろうか。

保有株の価値が上がること自体は、収益を増やすので問題ではない。だが、バフェット氏は投資家として、バークシャー・ハサウェイの株主価値が上がる投資先を見つけ、お金をさらに増やす役割を負う。問題は株価や企業価値が上がりすぎて、同社が保有する1160億ドル(約12兆3273億円)にも上る現金の使いみちが見つかりにくくなってしまったことだ。

バフェット氏の投資スタイルの基本は、長期集中投資だ。優良企業の株価が低迷しているときに大量に仕込み、忍耐強く値上がりを待つ「バリュー投資」である。だが、2017年には市場が全体的に上げて、「バリュー」が見つけにくくなったのである。

今年の手紙のなかでバフェット氏は、「買収先企業を探すときに吟味するのは、競争力、有能で質の高い経営陣、高い収益性、魅力的なリターンだ」と述べたうえで、「最後の条件は、適切な買収価格だ」と強調した。だが、2017年には適切な価格の企業、つまり割安物件がほとんどなかったとバフェット氏は告白する。

サウスウェスト航空を買収?

そうしたなか、現金が有り余っていても性急に投資先を見つけないのは、バークシャー・ハサウェイの株主を守るためだと、バフェット氏は言う。

「(パートナーのチャーリー・マンガー氏と)私が、株主の皆さんに不要なリスクを負わせることは狂気の沙汰だ。買収の機会は干ばつ状態だが、非常に大きな買収機会はいつか現れる。だが今しばらくは、他の投資企業が賢明でない投資を行うことを真似ず、より賢明な投資(買収を控えること)を心掛ける」と綴っている。

とはいえ、手紙にあるように「弊社の保険以外の事業の収益を上げなければならない」ことは明白であり、バフェット氏は手持ちの現金で、「航空会社をまるごと一つ、買うこともできる」と発言している。

米航空業界は再編が進んだために競争が緩和され、収益性が上がっており、バークシャー・ハサウェイが2016年から大量保有を始めた。そのなかでも、時価総額が約340億ドル(約3兆6132億円)で収益性のよいサウスウェスト航空が「予算内」に収まるため、標的になるのではともっぱらのうわさだ。

ここに、風林火山(疾きこと風の如く、徐かなること林の如く、侵掠すること火の如く、動かざること山の如し)ばりの、バフェット氏の戦略がある。動く時は素早く動くが、動かなくてもよい時はあせらず、泰然と振る舞うのである。

今年の手紙のなかでバフェット氏は、「投資家が必要とするのは、大衆の恐怖や熱狂を気に留めず、二、三の単純なファンダメンタルズに集中することなのだ」と助言を送っている。

抜け目なさで増益 投資で成功する秘訣とは?

トランプ相場で「おトク」な買収先が減って苦労するバフェット氏だが、一方でちゃっかりとトランプ大統領の税制政策で大儲けしたことを、今年の「投資家への手紙」で報告している。

バークシャー・ハサウェイの株主価値は2017年に650億ドル(約6兆9223億円)も増加したが、その内同社の事業の貢献は360億ドル(約3兆8339億円)に過ぎず、「残りの290億ドル(約3兆884億円)は、12月に米議会で成立した税制改革法による節税分だ」と、バフェット氏は年次書簡で述べた。

バフェット氏が反トランプの考えを持っていることは周知の事実であり、2016年の大統領選挙中は対立候補のヒラリー・クリントン元国務長官を支持していた。さらに、税制改革法案が米議会で審議されていた際には、「ここまで米国で経済格差が拡大するなか、弊社にさらなる節税は要らない」と述べていた。

しかし、税制改革法が成立して転がり込んできた290億ドルは、しっかりと懐に入れている。こうした清濁併せ呑んで株主に報いる抜け目のなさもバークシャー・ハサウェイの株主価値の源泉であり、「投資家への手紙」はバフェット氏の投資哲学の柔軟性を示している。

このように、2018年版の「投資家への手紙」は、平常心や抜け目なさが収益増大の秘訣だと教えている。市場ではボラティリティが高まりつつあるが、バフェット氏は書簡で、「そういう時こそ、投資家はシンプルなファンダメンタルズにますます集中するように」とアドバイスしているのである。

文・岩田太郎(在米ジャーナリスト )/ZUU online
 

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