食べることで相手の遺伝子を取り込む…。
そんなSFのような現象が動物と植物の間に起きていたようです。
3月25日に『Cell』に掲載された論文によれば、コナジラミと呼ばれる小さな昆虫の遺伝子に、植物の遺伝子が紛れ込んでいることが判明したとのこと。
種の壁を超えた遺伝子の移動は菌類同士などではよく起こり得ますが、植物と動物という根本から大きくかけ離れた種間の遺伝子移動が確認されたのは、コナジラミ以外、あまり知られていません。
コナジラミはいったいどんな遺伝子を植物から盗んだのでしょうか?
目次
植物から動物への水平遺伝を確認!
ウイルスが媒介になっていた
密接にかかわる生物は遺伝子の交換を起こす可能性がある
植物から動物への水平遺伝を確認!

おおよそ3500万年から8000万年前、コナジラミの先祖は植物の葉に降り立ち、葉脈から水分を吸いあげました。
コナジラミは植物の体液を吸い取って生きている昆虫なので、自然な出来事です。
しかしこの時、ある種の奇跡が起きました。
吸い上げた体液に含まれていたであろう植物の遺伝子が、コナジラミの細胞に紛れ込み、そのコナジラミは、なんと植物の遺伝子を持つ体になってしまったのです。
しかも幸運なことに、吸い上げた遺伝子「BtPMaT1」はコナジラミにとって「お宝」ともいうべきものでした。
多くの植物(トマトやナシ)はコナジラミのように体液を吸い取る虫に対抗するために、体液にある種の毒(フェノール配糖体)を流すように進化しました。
そして、コナジラミが盗んだ遺伝子「BtPMaT1」には進化の過程で、植物が自分を毒殺しないための中和薬を作る役割があったのです。
そのため植物にとって「BtPMaT1」は絶対に盗まれてはいけない遺伝子であり、コナジラミにとっては何が何でも手に入れたい遺伝子でした。
「BtPMaT1」を得たコナジラミは植物の毒素をものともせずに食事をとることが可能になり、現在に至るまで大いに繁栄し、農業にとって深刻な害虫として幅をきかせるようになってしまいました。
ですが常識的に考えて、食べるだけで遺伝子を得られる可能性は非常に低いといわざるをえません。
現在、地球上には数十億の人類が住んでいますが、野菜を食べて光合成ができるようになった人間は存在しないでしょう。
では、いったいどうやってコナジラミは植物の解毒遺伝子をゲットできたのでしょうか?
ウイルスが媒介になっていた

なぜコナジラミが植物の遺伝子をゲットできたのか?
研究者たちが最も可能性が高いと考えたのはウイルスの存在でした。
ウイルスは細胞に感染するだけでなく、時にエラーを起こして細胞の雑多な遺伝子を自分の内部に取り込むことがあります。
植物とコナジラミの両方に感染するウイルスがいたとすると、植物の遺伝子を取り込んでしまったウイルスがコナジラミに感染することで、植物からコナジラミに遺伝子を運ぶことが可能になります。
研究者たちは追加の検証として、解毒剤遺伝子である「BtPMaT1」を働かなくする薬を与えたコナジラミに「トマト」を食べさせてみました。
トマトは虫にとって毒であるフェノール配糖体を含んでおり「BtPMaT1」がなければ食べた虫は死んでしまいます。
実験を行った結果「BtPMaT1」の働きをを失ったコナジラミはトマトを食べて全滅しました。