韓国観光公社は4月、主要訪韓国21か国の3万人余りを対象として行った「潜在訪韓旅行客調査」の結果を発表しました。

その結果、「コロナ収束後に行きたい国」の1位は日本であることがわかりました。コロナ禍により海外旅行が制限されていた期間を経てもなお、日本は観光地として国際的に高い人気を得ているということです。

しかし、「行きたい国」では1位となったものの、外国人観光客の受け入れに関しては、日本は他の先進諸国に比べ対応が遅れています。

政府は早ければ6月から外国人観光客の受け入れを段階的に進める方向で調整を進めていますが、世界的な海外旅行再開の動きからするとこの対応は遅れていると言えます。また入国が許可される旅行の規模や形態など、詳細な条件はいまだに示されていません。

「行きたい国」として人気があっても、コロナ禍での規制により日本に入国できない時期がこれ以上続くと、外国人旅行客の「訪日熱」も冷めかねません。商機を逃さないためにも、早期の規制緩和が求められます。

日本と結びつきの強い隣国、韓国からの視点を分析しながら、海外旅行市場における現在の日本の立ち位置についてみていきます。

「3年以内に行きたい国」で日本が1位に、「コロナ収束後」の条件付きで

韓国観光公社は昨年、「2021潜在訪韓旅行客調査」を行いました。この調査は、主要訪韓国21か国の満15歳以上の男女計3万800人を対象に、2021年7月と12月に行われました。

回答者のうち、海外旅行の経験のある人は71.7%で、そのうち、「今後3年以内(2024年まで)に海外旅行をする意向がある」と答えた人は72.8%になりました。

さらにその「3年以内に海外旅行に行きたい」と答えた人に対する「最初に行きたい目的地」の回答では、1位は17.7%で日本となりました。2位には9.0%で韓国がランクインしましたが、それを大幅に上回り日本が「最初に行きたい目的地」としての人気を集めたのです。

「コロナ後行きたい国」1位は日本 インバウンド再開への具体的ロードマップ求められる
▲今後3年以内の最初の海外旅行希望目的地:韓国観光公社 2021潜在訪韓旅行者調査(画像=『訪日ラボ』より 引用)

この調査を行った韓国側の意図としては、「世界的に海外旅行が回復しつつある今、エンタメに強みのある韓国は目的地として高い人気がある」という結論に導きたかったのではないかと考えられます。

実際の結果を見ても、全回答者のうち「今後3年以内に訪韓旅行をする意向がある」と答えた人は47.0%にのぼりました。半分近くの回答者が、韓国を有力な目的地の候補として考慮しているということで、韓国の世界的な人気がうかがえます。

その韓国を大幅にリードして日本が「最初に行きたい国」の1位になったということです。観光地としての魅力自体は失われておらず、今もなお世界的に高い人気を集めているということがわかります。

ただし、前述の「3年以内に海外旅行の意向がある」と答えた人に「海外旅行のための前提条件」を回答してもらったところ、最も多かったのは30.6%で「訪問先の新型コロナの状況が安全だと思われるとき」となり、次いで24.1%で「WHOなど公的機関が新型コロナの終息宣言をするとき」となりました。

海外旅行客にとっても、コロナはなお大きな懸案事項の一つであるということです。

「入国しづらい」ため敬遠される日本

コロナ禍により各国が独自の入国条件を設けていることで、海外旅行客の目的地選びにも変化がみられます。

コロナ前、日本のインバウンドの最大の顧客といえば韓国人観光客でした。しかし2022年5月現在では、韓国市場での訪日旅行の人気は大きく下落しています。それと同時に、タイやインドネシアといった東南アジアの国々が旅行先として人気を集めているのです。

この変化の要因は、東南アジアの国々は入国制限の緩和が比較的早く、「入国しやすい」国々として韓国人に捉えられているからです。裏を返せば、入国制限の緩和が遅れていることで韓国人にとって日本が「入国しづらい」国になっていることが、日本の人気下落の要因になっているということです。

こうした傾向から、海外旅行客からの日本の評価として浮かびあがってくるのは、「観光地としての魅力はあるし、将来行ってみたいが、入国条件が厳しいうちは日本旅行は検討しづらい」といったものであると考えられます。

「お得意様」韓国から日本へのまなざし

旅行先として現在は敬遠されてしまっている日本ですが、観光地としての魅力自体が低下したわけではありません。日本に行きたいけれど行けないもどかしさの中で、外国人の「訪日熱」は低下するどころか高まりをみせていると考えられます。

訪日意欲の高まりについて、日本と結びつきの強い隣国・韓国を例にみていきます。

日本のインバウンド産業にとって、韓国人観光客は一番の「お得意様」であるといえます。

コロナ前の2018年には過去最多となる750万人以上の韓国人が日本を訪れ、同年のインバウンド消費額は5,887億円にのぼりました。日韓関係が悪化すれば観光客数、消費額が落ち込むこともありますが、日本経済にとって韓国市場が極めて重要な立ち位置を占めていることは間違いありません。

「コロナ後行きたい国」1位は日本 インバウンド再開への具体的ロードマップ求められる
▲訪日韓国人観光客数(2014年〜2019年)(画像=『訪日ラボ』より 引用)
「コロナ後行きたい国」1位は日本 インバウンド再開への具体的ロードマップ求められる
▲訪日韓国人による年間のインバウンド消費額(2014年〜2019年)(画像=『訪日ラボ』より 引用)

その日韓関係は、2018年頃から慰安婦問題や徴用工問題により「戦後最悪」ともいわれる状況にあります。現在もその修復は進んでおらず、5月に発足したユン政権と岸田政権の対話でとの程度改善できるか、という点に注目が集まっています。

しかし日本国民の中で、2022年5月現在、「日韓関係は戦後最悪だ」と認識している人は少ないのではないでしょうか。新型コロナやウクライナ関連のニュースに関心が集まっているため、日韓関係に関する報道は下火になっているのが現状です。

同時に、韓国のアイドルやドラマをはじめとするいわゆる「Kコンテンツ」も急速に日本に流入してきました。そうしたコンテンツが特に若い世代で大きな人気を集めていることも、「最悪の日韓関係」という印象を薄めている要因であると考えられます。

韓国国内でも同様のことが言えます。2019年には、大規模な日本製品の不買運動が起こりましたが、2022年現在では日本製品は再び市場に広く出回っています。日本のエンタメはもちろん、最近では日本酒や日本のアニメキャラクターのパンなども入手困難になるほどの人気を集めています。

日韓関係は政治的には「戦後最悪」といえるかもしれませんが、国民の意識としてはむしろお互いに良いイメージを抱いているといえます。日本人の訪韓意欲と同様に、韓国人の訪日意欲も高まっているといえます。

「疑似日本旅行」にみる訪日熱の高まり

日本に行きたくても行けないという今の状況が、かえって韓国人の「訪日熱」を高めている、と考えられる事例があります。

実際に日本を訪れることは難しい現在、それでもなんとか日本の雰囲気を味わおうと、韓国国内では「疑似日本旅行」ができる施設「にじもりスタジオ」が2021年に開業しました。

「コロナ後行きたい国」1位は日本 インバウンド再開への具体的ロードマップ求められる
▲にじもりスタジオ 公式サイト:https://nijimori.modoo.at/(画像=『訪日ラボ』より 引用)

ソウル近郊にあるこの施設は、もともとはドラマの撮影セットとして建設されたものでしたが、2021年9月に一般の人も入れるレジャー施設として再オープンしました。施設の中には旅館や風呂などもあり、宿泊することもできます。

セットや旅館の中にある家具や照明、小物などの中には日本から取り寄せたものも多くあります。本格的な日本の雰囲気を演出するために、細部まで忠実に再現されているということです。

また着物や浴衣などをレンタルして、日本風な背景と共に写真を撮ることもできます。このサービスもSNS世代の若者を中心に人気を集めています。

このにじもりスタジオ以外にも、韓国国内で日本を感じることのできるスポットが増えています。ソウル市内のホテル「ドーミーイン・ソウルカンナム」は、日本食や大浴場といった和風のおもてなしを売りにして、家族連れやカップルなど、幅広い層で人気を集めています。

こうした施設が人気を博していることからも、多くの韓国人が「いつかは実際に日本を訪れたい」という気持ちを抱えていることがわかります。