ハダカデバネズミは哺乳類でありながら昆虫のような社会を築きます。
群れの中で繁殖を行う個体は1匹の女王ネズミと1 匹~数匹のオスのみであり、他の個体は繁殖することなく「働きネズミ」として一生を労働に捧げます。
またハダカデバネズミには数々の奇妙な能力があることが知られてます。
地中での生活に適応するため、酸素濃度が完全に0%となっても18分間、後遺症なしに生き延びられる低酸素耐性を保持しています。
さらに、ガンに対して強い耐性があり、老化も非常に緩やかで30年も生きる個体もいます。これは通常のネズミの10倍にあたります。
痛みにも強く、酸・カプサイシン・わさび・激しい熱にも平然としています。
多細胞動物の最強生命がクマムシならば、哺乳類界最強の生命はハダカデバネズミだと言えるかもしれません。
そんな最強哺乳類のハダカデバネズミですが、9月28日に『Journal of Zoology』に掲載された論文によれば、ハダカデバネズミは他の巣を襲撃して、赤ちゃんネズミを誘拐し、自分たちの巣の奴隷にする侵略性をもつことが判明したとのこと。
地下ではいったい、何が起きているのでしょうか?
謎の勢力拡大

数々の優れた特性を持つハダカデバネズミは多くの生物学者の興味を引き、様々な研究が行われています。
ワシントン大学のブロード氏もその1人であり、ケニアのメル国立公園でハダカデバネズミの巣(コロニー)を観察していました。
すると、ある日、奇妙な事実に気が付きます。
以前は他のコロニーが占めていた巣穴に、自分たちの領域を拡大している26もの例を発見したからです。
あるコロニーが使用中の巣穴を無償で他のコロニーに簡単に受け渡すとは考えられません。
そこで研究者たちは一帯のコロニーに住むハダカデバネズミを捕獲し、個体識別タグをつけて巣に戻すという作業を繰り返し、数年に渡る長期の観察をはじめました。
結果、地下で勃発していた戦乱と略奪を目にすることになります。
暴行と誘拐が起きていた

数年にわたる観察の結果、隣接する2つのコロニーのうち、一方の「女王ネズミ」が顔に深い傷を負っていることを確認しました。
巣の内部における女王ネズミの存在は絶対であるため、明らかな外傷はもう一方のコロニーからの攻撃があったことを意味します。
しかし翌年になって、より興味深い事実がみつかります。
襲撃されたコロニーに属していたはずの2匹の子ネズミが、襲撃した側のコロニーの「働きネズミ」として生きていることに気付いたからです。
研究者たちははじめ、標識タグの付け間違いを疑いました。
しかし双方のコロニーから採取されたDNAを分析した結果、この2匹の子ネズミの遺伝子が顔に傷をつけられた被害者側の女王ネズミの子であると判明します。
この事実は、襲撃者側は単にライバルの巣の構成員を攻撃するだけでなく、離乳していない「赤ちゃん」を誘拐することで、自分たちのコロニーの労働力を増加させていたことを意味します。
同じような習性を持つ生物として「サムライアリ」が知られています。
サムライアリも他のアリの巣を襲撃し、サナギをさらうことで、自らのコロニーの労働力とする奴隷狩りの習性があります。