溶融塩原子炉の実用化が難しかった理由

実は溶融塩原子炉というアイデア自体は、1940年から存在していて、日本やアメリカを含め世界中で研究されていました。

しかし、ネックとなったのは溶融塩に対する耐食性のある素材が見つからなかったことです。

溶融塩原子炉の配管は、金属の腐食性が強い溶融塩を高温で流し続けるという過酷な環境で使用されます。

実際に溶融塩原子炉は建設されたこともありましたが、配管がすぐに腐食してしまい、長期的な運用はできなかったのです。

冷却材がいらない「新たな原子炉」の設計を中国が発表
(画像=配管の腐食は安全な長期運用を阻害する / Credit:depositphotos、『ナゾロジー』より引用)

そのため、今回の中国が打ち立てた成果というのは、1000℃近い温度のトリウム溶融塩の放射に耐え続けることができる合金を開発したという部分が非常に大きいようです。

こうした技術的問題を解決させたことで、中国政府は溶融塩原子炉の建設を承認しました。

パンデミックにより予定より計画が遅れたようですが、2021年9月にはプロトタイプの建設が完了する予定とのこと。

このプロトタイプは2MWの電力しか生成できないようですが、理論的な部分が実現されれば、その後今回設計された本格的な商用原子炉の建設に移るということです。

そちらの生成可能な最大電力は100MWで、これは通常の原子炉より少ないものの約10万世帯に電力を供給するのに十分な発電量です。

さらに、この溶融塩原子炉の大きな特徴は、非常に小さいということです。

設計に携わった上海応用物理学研究所のヤン・ルイ(Yan Rui)教授によると、蒸気タービンなどの施設は別として、原子炉自体の大きさは、高さ3メートル、幅2.5メートルでバスルームと同じくらいのサイズだといいます。

この小型サイズは、原子力潜水艦のような軍事兵器においても、有用な技術になる可能性があります。

燃料に使われるトリウムは、レアアース鉱石の精錬時に副産物として出てくるため、中国にとっては容易に手に入れやすいというメリットもあります。

また、トリウムを使った燃料は、核兵器への転用ができないため、原子力技術の輸出商品としても魅力的なようです。

脱炭素を目指しつつ、安定した電力供給を確保するためには、原子力を利用することは避けられません。

安全な原子炉が早く実用化されるといいですね。

【編集注 2021.07.26 10:00】
記事内容に一部説明不足な箇所があったため、追記して再送しております。


参考文献

Could China’s molten salt nuclear reactor be a clean, safe source of power? (SCMP)


提供元・ナゾロジー

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