乾いたスパゲティは2つに割れません。
両端を持って曲げていくと、中央付近で割れて2つになったかと思いきや、高い確率でオマケでもう1つ「割れ」が発生し、3つ以上の破片になってしまうのです。
この不思議な現象を解明するため、研究者たちはスパゲティーを買い込み、本格的な物理実験を行いました。
研究内容はフランスのUPMC(ピエール・マリー・キュリー大学)の研究者たちにより『PHYSICAL REVIEW LETTERS』に掲載され、後にイグノーベル賞を受賞することになります。
さらにその後、アメリカのMIT(マサチューセッツ工科大学)の研究者たちにより、スパゲティを割るためだけの専用装置が編み出され、数百通りの条件を試すことでスパゲティーを2つに割る方法が確立されました。
研究の内容は学術雑誌『PNAS』に掲載されています。
これらの研究成果をカーボンナノチューブなどに適応することで、最先端の材料科学の進展も期待されるそう。
どうして乾いたスパゲティは2つに割るだけのことが困難だったのでしょうか?
目次
乾いたスパゲティが2つに割れない理由は増幅された振動のせいだった
スパゲティを2つに割るには「ひねり」を加えればいい
乾いたスパゲティが2つに割れない理由は増幅された振動のせいだった

スパゲティはかつて物理学者を何十年にも渡り悩ませてきました。
両端を持ってパキッと音がするまで曲げると、常に3つ以上の破片に割れるからです。
そこでフランスのUPMCの研究者たちはこの奇妙な現象を真面目に調べることにしました。

具体的には上の図のように、スパゲティの一端を壁に固定しもう一方を引っ張って曲げる実験を繰り返しました。
すると意外な事実が判明します。
力をかけて曲げていたときには折れなかったスパゲティが、力を解放してビヨンビヨンと反動で振動しているときに割れるケースが多発したのです。
なぜ負荷が最も強い時に折れずに、解放によって折れたのか?
謎を解明するため研究者たちはシミュレーションを元に計算しました。
結果、曲がっていたスパゲティが元に戻るときに生じる振動波が、固定されていた方の端に到達すると反射し、振幅(振動の幅)を大きくさせていることが判明しました。
また、増大した振幅によってスパゲティにかかる負荷(曲げ率)は、力を入れている時よりも大きく「割れ」につながっていたことが判明します。
この結果をスパゲッティを曲げて折る現象に当てはめると、追加の断片ができる理由が見えてきます。

両手に力をかけてスパゲッティを曲げていくと、まず中央付近で「割れ」が生じて、実験と同様の力が解放された状態になり、割れ目からスパゲティを固定している手の部分に向けて振動が発生します。
そして振動が固定された手の部分で反射して振幅を増大させることで、スパゲッティの耐えられる負荷を突破。
結果として追加の断片を生成していたのです。
破損した部分から発生した振動が増強される仕組みは「スナップバック」として呼ばれており、橋や建物などを崩壊させる原因としても知られています。
身近なスパゲッティが2つに割れない現象が建築学にも通じているという事実は多くの人々の興味を引き、研究は翌年のイグノーベル賞を受賞します。
しかし研究者たちがスパゲティにかける情熱は、原理を解明しただけでは収まりませんでした。
アメリカのMITの研究者たちは振動を抑制するような割り方を行えば、スパゲティを綺麗に2つの割れると考え、新たな研究をはじめます。
鍵となったのはスパゲティに加える「ひねり」でした。
スパゲティを2つに割るには「ひねり」を加えればいい

スパゲティを綺麗に2つに割るにはどうすればいいか?
MITの研究者たちは様々な条件を均一の環境で行うために、上の図のような「スパゲティを曲げる専門の装置」を開発しました。
装置はスパゲティを様々な速度や角度で曲げれるだけでなく、スパゲティを横方向にひねることも可能な、超高性能な製品となっています。
研究者たちはこの装置を用いて、数百通りもの条件でスパゲティを曲げてみました。


結果、大きなひねり(360度近く)を加えながら曲げた場合、スパゲッティが綺麗に2つに割れることが判明します。
しかしこの時点では、なぜひねりが追加の断片を防ぐかは不明でした。
そこで研究者たちは新たに計算モデルの開発を行い、最初の割れ目から生じる振動とひねりの関係を調べることにしました。
すると、意外な事実が判明します。

スパゲティにひねりの負荷がある状態で割った場合、最初の割れ目から生じた解放エネルギーはスパゲティを上下に振動させると運動(スナップバック)だけでなく、スパゲティをツイストさせるような繰り返しのひねり運動(ツイストバック)にも使われていたと判明したのです。
そしてひねりの負荷が大きい場合、割れ目から生じた解放エネルギーはスパゲティを振動させるよりも、ひねりの繰り返し運動のほうに、優先的に投じられていました。
また、ひねりの繰り返しは振動よりもスパゲティ全体に素早く伝播できるため、スパゲティの場所ごとにかかる負荷を低減できることも判明します。
そのためスパゲティに十分なひねりが加えられている場合、追加の破損がうまれず、綺麗に2つに割ることに成功していたのです。