重力波が宇宙の謎を解くヒントになるかもしれません。
12月21日に『Physical Review D』に掲載された論文によれば、重力波を観測することで既存の科学では観測不可能な物理現象を探知する方法が示されました。
新たに開発されたこの方法は、史上初めて重力波の観測に成功した「LIGO(レーザー干渉計重力波観測所)」の改良にも用いられる予定であり、成功すれば、確実にダークマターを観測できるとのこと。
なにやら難しそうな話ですが、基本となる原理はだれでも理解可能。
具体的には、糸電話レベルの話となります。
その方法とは、いったいどんなものなのか見てみましょう!
重力波とは何か?

重力波とは、時空の連続的な波のような歪みです。
アインシュタインの一般相対性理論によれば、質量を持つ物体全てが重力を持ち空間を大なり小なり歪ませているとされています。
しかし、どんなに重たい物質(例えばブラックホール)でも、ぽつんと存在しているだけでは歪みの傾斜は単調であり、波型にはなりません(下図)。
ですが、運動がはじまると状況は違ってきます。

ブラックホールや中性子星といった異常な重さを持つ物体が連星になって互いを引っ張り合ったり、衝突したりすると、生じた空間の歪みが隣接する空間に伝播し、その空間もまた隣接する空間を歪ませていきます。
このような過程を経て、歪みは水面にできた波紋のように広がっていくのです。
こうして伝わってくる空間の歪みを、重力波と呼んでいます。
つまり重力波は、宇宙で起きた大事件のメッセンジャーとも解釈できます。
2015年、人類は観測装置「LIGO」を用いて、はじめて重力波の観測に成功します。
以降、2年間で大きな変動は6回ほど記録され、そのうち5つはブラックホール同士の衝突であり、1回は中性子星どうしの衝突でした。
どうやら広い宇宙では、星やブラックホールの衝突は珍しくないようです(計算上は全宇宙で5分に1回以上起きている)。
また重力波には宇宙が続くかぎりどこまでも光の速度で伝播していくという性質があるため、事件の場所がどんなに地球から離れていても、必ず到着します。
光と違って重力波は空間の全方位に向けて発信されているのです。
そのためもし宇宙全域にメッセージを伝えるなら、重力波を使った通信が最も確実と言えるでしょう。
今回の研究では、どのようにこのメッセンジャーを、未知の物理現象の探知に応用したのでしょうか?
影響の引き算でアノマリーを探す

重力波は優れた大事件のメッセンジャーであることは述べた通り。
しかし重力波による通信も完ぺきではありません。
重力波も光と同じく重力による影響を受けて、波の形状に乱れを生じさせることがあるからです。
例えば地球に向かって進んできた重力波の途中に、ブラックホールや銀河などの大きな質量を持つ存在があれば、それらが発する重力によって、重力波の波形が乱されてしまうのです。
糸電話で例えるならば、糸を伝わってくる振動に、外部環境のノイズ(工事の音など)が混じって聞こえてくるようなものです。
第三者によって波形が乱れてしまう性質は、メッセンジャーとしては短所となります。
しかし「乱れかた」を分析することで、重力波の通ってきた道にあった質量を持つ存在の正体を暴くことができます。
それがたとえ、これまで観測不能だったダークマターであってもです。
ダークマターは謎が多い存在ですが、質量を持っているのではないかと予想されています。
そのため、どんなにうまく隠れていても、必ず重力という「しっぽ」を出してしまい、重力波に影響を与えてしまいます。
地球で観測された重力波のデータから、ブラックホールや中性子星、銀河といった要因を除いていくと、必然的にダークマターをはじめとした未知の物理現象の影響だけが残るのです。
そしてそれらが重力波をどのように乱したかを分析すれば、謎に包まれた性質を調べることが可能になります。