従業員発の売場づくりも進む

低価格と付加価値を両立し、リアルでもネットでもナンバーワンを目指す!西友の今とこれから!
(画像=長野北店の青果売場での関連販売の様子(22年6月の取材時)、『DCSオンライン』より引用)

西友の展開地域の中で、とくに個店経営・地域対応が進んでいるのが長野エリアだ。そのなかでも「西友長野北店」(長野県長野市:以下、長野北店)は他のエリアから学びに来る社員も多いという。店内の至る所に「信州の味」と銘打ったコーナーを導入し、地元産の商品を数多く展開。長野北店での地域商品の比率は2割にまで高まっている。

また、エリアでの調達網を生かして安く仕入れることができた青果を「得特売」と打ち出し価格訴求しているほか、水産部門では、新潟の漁港から直送した鮮魚を大きく展開して鮮度を訴求。長野における水産のエリア調達比率は約6割にもなっているという。また、総菜ではローカルフードを活用したり、地元の有名店とコラボしたりすることで、地域独自の商品開発に取り組んでいる。

長野北店では、PBと生鮮を絡めた関連販売が積極的に行われているほか、取り扱い商品を使ったレシピ提案のPOPを従業員が作成し、売場の各所に差し込むなど、従業員が自ら進んで売場を盛り上げようと積極的にさまざまなチャレンジをしていることも見受けられた。

そのほか、「もう1品」の購入を喚起するため、グロサリーのエンドのそばでは総菜やベーカリーを小テーブルに置いて展開していた。実際買っていくお客も多く、売上増に貢献しているという。なお、この取り組みは「西友荻窪店」(東京都杉並区)など首都圏の店舗でも導入されている。こうした現場発の取り組みが水平展開できるようになったのも、商販一体で密な情報共有ができるようになったことの成果と言える。

OMOで顧客満足度を高める

リアル店舗でのさまざまな改革と並行して、西友がめざしているのが「革新的なOMOリテーラーになること」だ。その柱として掲げているのがデジタルマーケティングとネットスーパーである。22年4月には株主である楽天グループと連携し、「楽天ポイント」を軸としたデジタルマーケティングを本格的にスタート。実店舗とネットスーパーのデータを一元管理することで顧客のニーズをより正確に把握し、商品開発や品揃え、来店時間帯に合わせた売場づくりに活用することで顧客満足度を向上させる。決済機能やポイントカード機能を搭載し、ネットスーパーも利用できる「楽天西友アプリ」を通じてデータを収集し、分析の精度を高めていきたい考えだ。

ネットスーパーは実店舗と分けて考えるのではなく、両方あわせて商圏内の消費者の顧客体験を向上させることをめざす。実店舗から半径1.5~2km圏内は店舗出荷型で対応し、それ以外のエリアを倉庫出荷型で網羅するハイブリッドでネットスーパーを運営。配送エリアを狭商圏高密度とすることで配送効率を高め、店舗出荷型では大半の店舗で黒字化を達成している。倉庫出荷型では中心拠点(ハブ)に貨物を集約したうえで拠点(スポーク)ごとに仕分けて運搬する「ハブ&スポーク」を採用し、効率的な配送体制を構築している。

このように、西友はウォルマート傘下時代のEDLPを強みとしつつ、さまざまな改革に取り組んでいる。ネットスーパーでは中計の目標に掲げた25年度に流通総額における構成比2ケタを24年度に前倒しで達成できる見込みであり、すでに大きな成果が表れている。

一方、生鮮や総菜の付加価値向上などを中心とするリアル店舗の改革の効果がいっそう顕著に表れるには、まだ一定の時間がかかるようだ。実際、消費者を対象としたウェブアンケートでは、以前から強みとしている価格の安さやPBは評価されているものの、生鮮や総菜の品質を評価する声はまだ限定的だった(72~74ページ参照)。また、SMを中心に業務改善のコンサルティングに携わる新谷千里氏は、一部の店舗では青果の鮮度管理には課題があると指摘している。そうした意味では、西友の“変身”はまだ発展途上ともいえ、伸びしろが大いにありそうだ。

実際、長野北店を筆頭に、すでに改革が浸透している成功例は積み上がってきており、確実に西友は進化していると言える。西友の21年度の売上高は7373億円で、SM業界トップのライフコーポレーション(大阪府/岩崎高治社長)とほぼ同規模。今後改革が進んでいけば、「食品スーパーとして業界ナンバーワンになる」という目標を達成する日も遠くないだろう。本特集を読み、西友がどのように“変身”しているか、ぜひ見てほしい。

次項以降は有料会員「DCSオンライン+」限定記事となります。

提供元・DCSオンライン

【関連記事】
「デジタル化と小売業の未来」#17 小売とメーカーの境目がなくなる?10年後の小売業界未来予測
ユニクロがデジタル人材に最大年収10億円を払う理由と時代遅れのKPIが余剰在庫を量産する事実
1000店、2000億円達成!空白の都心マーケットでまいばすけっとが成功した理由とは
全85アカウントでスタッフが顧客と「1対1」でつながる 三越伊勢丹のSNS活用戦略とは
キーワードは“背徳感” ベーカリー部門でもヒットの予感「ルーサーバーガー」と「マヌルパン」