SPA化で商品の独自化とEDLCを実現

西友(東京都/大久保恒夫社長)は米ウォルマート(Walmart)傘下で、長年EDLP(エブリデー・ロー・プライス)を軸とする価格戦略を強みとしてきた。しかし、2021年3月、ウォルマートが所有株式の大半を米投資会社のコールバーグ・クラビス・ロバーツ(KKR)と楽天グループ(東京都/三木谷浩史会長兼社長)に売却。株主変更と同時に新社長に就任した大久保恒夫氏のもと、西友はさまざまな改革を実施し、まさに“変身”しようとしている。

西友は21年6月、新たな中期経営計画を発表(図表参照)。「食品スーパーとして業界ナンバーワンになる」「ネットスーパーで業界ナンバーワンになる」という目標を掲げ、25年度に実店舗とネットスーパーの売上合計である流通総額を現状から1000億円増、営業利益を現状比の2倍、流通総額におけるネットスーパーの構成比2ケタをめざす。

低価格と付加価値を両立し、リアルでもネットでもナンバーワンを目指す!西友の今とこれから!
(画像=『DCSオンライン』より引用)

これらの大きな目標を達成するため、西友はさまざまな施策に注力している最中だ。まず取り組むのが「価格競争力と価格以外の価値提供のトレード・オン」である。これまで培ってきたウォルマート流のEDLPを軸とした価格競争力を維持・強化。これに加え、地域特性に合わせた品揃えの実現や、健康志向など伸長ニーズの商品の充実、売場でのメニュー提案など、低価格とそれ以外の付加価値の両立をめざす。

また、このような付加価値を創造するために必要なのが「商品力」「販売力」の強化だ。「商品力」では、西友の独自商品であるプライベートブランド(PB)「みなさまのお墨付き」で、ナショナルブランドの品質を担保した低価格な商品から、消費者のニーズをくみ取った付加価値型の商品開発にシフト。さらに生鮮食品や総菜では、できるだけサプライチェーンの川上から原材料を調達するため、生産者との関係性構築や産地・取引先開拓に注力。たとえば水産部門では、ノルウェーの企業が開発した「オーロラサーモン」を直接仕入れし、コスト削減と直航便の利用による品質保持が可能になった。総菜では、自社工場での作業比率を高めることで独自商品の拡大と店内作業の軽減に取り組んでいる。

このような製造小売業(SPA)を志向することのメリットは、独自商品を拡大できることだけではない。自社でサプライチェーンの主導権を握り、生産効率や物流効率の向上、在庫の適正化などを進め、従来の強みであるEDLPを支えるEDLC(エブリデー・ロー・コスト)にもつなげることができる。

商販一体のもと地域対応を推進

「販売力」の強化については、商品本部と販売本部が密に連携する「商販一体」の取り組みを推進。西友がおすすめする商品を単品大量で徹底的に売り込む「ヒーロープログラム」では、商品本部と販売本部が毎月協議し、値入れ率や顧客の関心度など、双方が持っている情報を共有したうえで対象となる「ヒーローアイテム」を決定。仕入れの商談や売り込み計画の立案などに共同で取り組んでいる。

そのほか、販売力を高めるため、西友は各店舗や現場の従業員の自主性を重んじる「個店経営」も推進している。以前の西友は効率性を追求し、本部による一括仕入れを行っていたため、地域や各店舗独自のニーズに応じた品揃えが十分ではなかったほか、店舗独自の販促物の作成や売場づくりも限定的だった。現在では商販一体の組織体制のもと、地域ごとのバイヤー配置を進めており、地域特性に合った商品の仕入れを強化している。

エリア調達が可能になったことにより、西友内で活発化しつつあるのが、特定の地域で好調な商品を別の地域でも展開する“逆ローカル”の取り組みだ。「西友三軒茶屋店」(東京都世田谷区)では22年6月の取材時、九州エリアの「めんたいマヨネーズ」をパン売場そばの柱に壁掛けのラックを取り付けて展開。手書きのPOPを活用し、パンに塗って「めんたいトースト」として食べることを提案していた。このように、西友では従業員の自発的な売場づくりを促すため、現場への権限委譲が進んでいる。