大好物を示す「ネコにマタタビ」ということわざがあるほど、ネコと関わりが深いマタタビ。
個体差はあるものの、大抵のネコがマタタビを前にすると体を擦りよせ、噛んだり舐めたりしてふにゃふにゃになってしまいます。
しかし、本来肉食動物であるネコがマタタビという特定の植物をそこまで好むのはなぜなのでしょうか?
最新研究によって明らかになったネコがマタタビを好む理由は思ったよりもずっと実用性の高いものでした。
この記事ではネコとマタタビの関係をおさらいすると共に、ネコがマタタビを好む理由について調べた最新の研究をご紹介します。
目次
踊ってる?酔ってる?ネコのマタタビ反応とは?
マタタビ反応は蚊よけのためだった?!
踊ってる?酔ってる?ネコのマタタビ反応とは?
ネコにマタタビを与えたときの様子は「マタタビ踊り」、「マタタビで酔っ払っている」といった風に表現されることが多いです。
多くのネコが行う、ごろごろ転がりながらマタタビに体を擦りつけるような動作は確かに踊っているように見えますし、中には興奮のあまりおしっこをもらすネコなどもいて「酔っぱらう」という表現も間違っていないように思えます。
これらのネコが行う動作は「マタタビ反応」と呼ばれ、マタタビだけでなく西洋のハーブであるキャットニップなどに対しても見られます。
またマタタビに初めて出会ったネコでもマタタビ反応を示すため、学習するものではなく、生まれながらに備わった本能的な行動であると推測されます。
そもそもネコはマタタビの中の何に反応しているのでしょうか?
マタタビ反応を引き起こす「ネペタラクトール」
岩手大学の上野山氏らの研究グループは、マタタビに含まれる「ネペタラクトール」という成分がネコのマタタビ反応を引き起こすことを発見しました。
ネペタラクトールはマタタビに含まれる多くのイリドイド系化合物の中の1つですが、他の化合物と比べて含有量が多く、ネコのマタタビ反応も他のものより長かったとのことです。
また、マタタビと同様にネコが反応するキャットニップにはネペラクトールによく似た構造の「ネペタラクタン」が含まれるそうです。
マタタビ反応のとき、ネコは多幸感に包まれている
ネペタラクトールによってマタタビ反応中のネコたちの体の中ではどのようなことが起こっているのでしょうか?
このことについても同グループが調査を行い、マタタビ反応をしているネコは脳神経系の一種であるµ(ミュー)オピオイド系が活性化していることを突き止めました。
µオピオイド系はヒトの多幸感に関わる神経系の一種として知られています。
マタタビ反応を行った後はµオピオイド系が活性化するために必要な「βエンドルフィン」の血中濃度が高かったことから、ネコはマタタビ反応によって多幸感を感じている可能性が示唆されました。
ネコ科の他の生き物もマタタビ反応を示す
同研究では、ネペタラクトールについて、ネコ以外の動物でも反応を示すか実験が行われました。
その結果、ジャガー、アムールヒョウ、シベリアオオヤマネコといった大型のネコ科動物もまたネペタラクトールに対してマタタビ反応を示すという結果になりました。
こういった研究はマタタビだけでなくキャットニップについても行われており、テネシー大学のヒル氏らの研究グループではトラやピューマ、ボブキャットがマタタビ反応ならぬキャットニップ反応を示したということです。
では肉食であるはずのネコ科動物の多くが、本能的にマタタビやキャットニップに反応するようになったのにはどのような理由があるのでしょうか?
マタタビ反応は蚊よけのためだった?!
ネコがマタタビを好むことは江戸時代から言及されています。
また、これまで紹介した研究によって、何がネコのマタタビ反応をもたらすのかも明らかとなりました。
しかし、そもそもなぜ完全肉食であるネコ科の生き物に植物であるマタタビに反応する本能が備わったのでしょうか。
同研究グループでは、ネコがマタタビに反応するようになった理由についても調査を進め、意外な理由が関係していることを突き止めました。
ネコのマタタビ反応は「蚊よけ」のためだったというのです。
ネコのマタタビの成分を体に擦りつけている
マタタビ踊りと言われるネコのマタタビ反応、地面にごろごろ転がるような動作を思い浮かべる方が多いと思います。
しかしそれは、ネコにマタタビを与えるときにマタタビを地面に置くためだったのかもしれません。
同研究ではマタタビ反応を引き起こすネペタラクトールを壁や天井に設置するという実験が行われました。
すると、ネコはネペタラクトールに体を擦りつける動作を見せたものの、地面に転がる動作は見せませんでした。
つまり、ネコはマタタビに気持ちよくなって寝転がっているわけではなく、マタタビに含まれるネペタラクトールを体に擦りつけることが目的だったのです。
ネペタラクトールには「蚊よけ」の成分が含まれていた
それではネコは何のためにネペタラクトールに体を擦りつけているのでしょうか。
そこで注目されたのがネコがマタタビ反応と同様の反応を示すキャットニップです。
キャットニップは蚊よけのハーブとして知られており、キャットニップに含まれるネペタラクタンには蚊の忌避効果が認められています。
そこで、ネペタラクタンによく似た成分であるネペタラクトールについて蚊への効果を調べたところ、蚊に対する忌避効果と殺虫効果が認められました。
マタタビの葉を噛むことで効果UP!
また、ネコはマタタビ反応の最中、マタタビの枝や葉を噛むことでも知られています。
わが家の飼いネコも寝転がったりするよりマタタビの枝を嚙み砕いてしまうことが多く、なぜこのようなことをするのか不思議に思っていました。
「食べてしまうのでは」といつもハラハラしながら見守っていますが、本当に齧って傷をつけるだけで、飲み込んだりすることは全くないのです。
実は、この行動にもマタタビの「蚊よけ」を促す理由がありました。
ネコに噛まれて傷ついたマタタビの葉は傷ついていない葉とは蚊に対する有効成分の組成が異なるのだと言います。
傷ついたマタタビの葉から得られた有効成分は、傷ついていない葉の有効成分と比べると、蚊の忌避効果の即効性が高くなっていたとのこと。
つまり、ネコは自らマタタビを傷つけて体に擦りつけることで「蚊よけ」の効果を高めていたことが明らかになりました。
ネコと蚊の関係
ここまで読んで「なぜネコはそんなに蚊を嫌がっているの?」と疑問に思う方もいるかもしれません。
しかし実はネコは蚊に刺されることで命を失う危険性すらあります。
問題となるのは蚊が媒介する寄生虫「フィラリア」です。
イヌに寄生することがよく知られているフィラリアですが、ネコにも寄生することがわかっており、呼吸困難などで死に至ることもあるのだそうです。
飼いネコの10匹に1匹がフィラリア幼虫に感染していたというデータもあります。
ネコにとってマタタビ反応が命に関わるフィラリア感染を防ぐ手立てと考えるなら、ネコ自らが本能的に行うようになったのも頷けますね。
とはいえ、ネコのマタタビ反応にはまだまだ謎が多くあります。