産卵し、牛乳の汗を流し、電気センサーつきのクチバシとハ虫類の毒を備え、紫外線をあてると発光する毛皮をまとい、10本の性染色体で性別を決めるカモノハシの不思議が解き明かされたようです。

1月6日に『Nature』に掲載された論文によれば、哺乳類・鳥類・ハ虫類の全ての特徴を備えたカモノハシの詳細な遺伝子の解読に成功し、奇妙な特徴の起源に迫る発見が行われたとのこと。

ごちゃまぜ生物カモノハシは、いったいどんな進化の歴史を辿ってきたのでしょうか?

目次
ハ虫類と鳥類の遺伝子を持つ哺乳類
10本の性染色体の異常な構造

ハ虫類と鳥類の遺伝子を持つ哺乳類

哺乳類・鳥類・ハ虫類の特徴を全て持つ「カモノハシ」が、産卵し汗で授乳する理由を解明
(画像=カモノハシは他の哺乳類と2億年近く前に分れた遠い遠い親戚 / Credit:ナゾロジー、『ナゾロジー』より引用)

カモノハシは分類上は哺乳類です。

しかし犬や猫といった見慣れたグループ(真獣類)やカンガルーやコアラといった袋で赤ちゃんを育てるグループ(有袋類)とは異なり、カモノハシ目(単孔類)という第三勢力に所属します。

カモノハシが他の哺乳類と最も異なる点は、産卵する習性にあります。

卵の大きさは人間の親指の先ほどで、子どもは殻を破って孵化します。

この時点で既に哺乳類かどうか怪しいですが、卵からかえった子どもに対して、カモノハシのメスは授乳することが可能です。

ただし、乳首は存在せず、母乳は汗を出す汗腺から出てきます。

乳首が全く存在しない哺乳類は、カモノハシ以外には存在しません。

そのため発見当初は、クチバシの存在も相まって、アジアのはく製職人による偽の合成品だと思われていました。

しかし、少なくとも第一印象に限っては、遺伝学的に間違いでないことが証明されます。

カモノハシの遺伝子には、本来ならば哺乳類に存在しないハズの、鳥類やハ虫類に特有の遺伝子が数多く含まれていたからです。

つまりカモノハシは見た目だけでなく、遺伝的にも哺乳類と鳥類とハ虫類のごちゃまぜだったのです。

代表的なものは、卵生に必須なヒトロゲニン遺伝子です。

ヒトロゲニン遺伝子は卵黄タンパクの一種であり、卵で増える全ての動物(魚や虫も含む)に共通して存在する遺伝子です。

人間やカンガルーなど卵で増えない哺乳類には、このヒトロゲニン遺伝子はありませんが、カモノハシは持っています。

この事実はカモノハシの先祖が誕生した当初、哺乳類はまだ独自性が弱く、卵生も含めて、ハ虫類や鳥類の特色を捨てずにいたことを意味します。

子どもを子宮で大きくして直接産み、乳首から母乳を出して育てるという私たちにとってありふれた哺乳類の姿は、実は哺乳類の歴史でも後半になってからようやく表れたものだったのです。

カモノハシはそれ以前の、太古の哺乳類の姿を残した数少ない種だと言えるでしょう。

しかしカモノハシの遺伝子は単に哺乳類・ハ虫類・鳥類の混ぜ合わせだけでは説明がつかない、異常とも言える特性がありました。

カモノハシの性染色体のとある構造は、動物よりも植物に近かったのです。

今回、科学雑誌『Nature』に掲載されたのも、この異常ともいえる性染色体の構造解明によるところが大きいと言えるでしょう。

ごちゃまぜ生物カモノハシは、植物にまで手を出していたのでしょうか?

10本の性染色体の異常な構造

哺乳類・鳥類・ハ虫類の特徴を全て持つ「カモノハシ」が、産卵し汗で授乳する理由を解明
(画像=減数分裂時に性染色体が植物と同じようにリング状になることが確認されたのはカモノハシのみである / Credit:Nature、『ナゾロジー』より引用)

結論から言えば、やはりカモノハシは動物の範囲に留まっています。

ただ通常の哺乳類がX・Yという2本の性染色体で性別を決めている一方で、カモノハシの性染色体は10本もあります。

ですがおかしいのは数だけではありません。

研究者たちがカモノハシの10本ある性染色体の減数分裂時(精子や卵子を作るための細胞分裂)の構造を分析した結果、性染色体がリング状の構造をとることが示されたのです。

性染色体がリング状になるというのは、これまで植物でのみ知られていたことで、動物で発見されたのは今回がはじめてになります。