国にとっては「楽」な制度
しかし、世の趨勢は逆です。源泉徴収制を採用する国は増え続け、欧州ではスイスを残すのみ。G7において唯一申告制だったフランスも、2019年から源泉徴収制に切り替えています。
理由は、徴税が「楽」だからです。国に代わって、企業が徴収してくれるわけですから。
源泉徴収を廃止し、申告納税に切り替えた場合、税金滞納の可能性が高まります。実際、源泉徴収していないスイスでは、税金滞納が多く発生しているのです。
日本の源泉徴収(源泉所得税)が、租税全体に占める比率は26.2%。額にして17.1兆円。これに、滞納発生率(※2 令和2年全体滞納率=0.9%と仮定)をかけると、1,539億円。これだけの額が「とりっぱぐれ」となる可能性がある。加えて、毎月行われていた納付が、確定申告時の年一回だけになると、キャッシュフローも悪化する。国にとって大きなデメリットです。
源泉徴収制度のもとでは、滞納や「とりっぱぐれ」は基本的に発生しません。定期的に一定額を獲得できるため、キャッシュフローが安定します。
徴税が「楽」な源泉徴収制度。廃止することは難しそうです。
企業負担が大きすぎる制度
徴税が楽なのは、国がやるべき事務作業を、企業が代行しているからです。この負担は、年々増加しています。日本税理士会連合会は以下のように訴えています。
源泉徴収制度の導入以降、その範囲は拡大の一途をたどり、現行の制度は極めて複雑化している。源泉徴収義務者(企業)には過大な事務負担と法的責任が課せられている。
源泉徴収制度のあり方について|日本税理士会連合会・税制審議会
日本だけではありません。フランス企業運動(MEDEF=日本の経団連に相当)は、源泉徴収制導入の議論において、「企業は税金の徴収機関ではない」と述べるなど、事務負担について問題視しています。
本来、納税にかかる事務作業は、納税者と国で負担すべきもの。しかし、現行の制度は、源泉徴収義務者である企業に、最も多くの負担を強いています。
5000万人の一部の投票で
源泉徴収廃止。給与所得者の大半が「面倒くさい」と答えるだろう、と冒頭で述べました。しかし、納税は義務です。納税の手続きも、納税者自身が行うべきものです。
昨今の、低い投票率から日本の将来を不安視する方も多いのではないでしょうか。源泉徴収対象の就業者(給与所得者)は約5,000万人。この一部でも、「怒り」で投票すれば、投票率は大幅に上がるはずです。
マイナンバー導入から既に6年。国には、これを活用し、煩雑な手続きを簡略化していただきたい。源泉徴収に頼ることなく、納税者自身が申告できる体制を構築していただきたい、と思います。
【参考・注釈】
※1 参院選特番「選挙の日 2022 私たちの明日」
※2 令和2年全体の滞納率 令和2年度租税滞納状況について(令和3年8月国税庁)
参考 国税庁レポート2022(国税庁レポート2022|活動報告・発表・統計|国税庁)
文・関谷 信之/提供元・アゴラ 言論プラットフォーム
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