②官邸の陰謀がトンデモに飛躍
映画では、ある大学の新設にかかる内部文書が、東都新聞社会部にファックスで送信されてきたことから取材が始まります。担当するのは、社会部内で浮いている吉岡記者。W主演のもうひとり、シム・ウンギョンさんが演じています。
新設大学は「総理のお友達が理事長」で「最先端のバイオ研究を行う」という触れ込み。加計学園問題を連想させる設定です。誰がこの内部文書を、どんな理由で東都新聞に送ったのか。それは「大学設立に問題があるから、ペンの力で潰してくれってことだろう」とあたりをつけて取材をしていき、ついに《衝撃の真実》(映画予告より)にたどり着くのですが、その真実があまりに飛躍が過ぎるのです。
詳しくはスクリーンでお確かめいただきたいのですが、ここまで加計学園を思わせる感じでやってきて、それ!? と私は座席から滑り落ちる思いでした。なにせ、官邸肝いりで複数の省庁がかかわる新設大学がもくろんでいることは、国際法・国際条約違反。しかもばっちり文書で残している。
もちろん、現実社会をトレースしたとはいえフィクションですから、どんな風に描いてもいいとは思います。しかし、ほかにも伊藤詩織さん事件を基にする事例を盛り込むなど、「それっぽく」見せる努力をしてきたのに、それなの? と。本当だったらとんでもない話ですから、トンデモではない、というなら現実社会のほうで、その論証をお願いしたいところです。
何より、加計学園問題は「総理のお友達の学校に、官僚が忖度することによって戦略特区の対象として認可する便宜が図られた」ことを問題視していたはず。これは映画の中の「真実」と比較するとしょぼいので、加計学園問題が矮小化される恐れすら心配してしまいます。
③女性記者・吉岡は望月ではない
冒頭でも触れたとおり、この映画では「劇中座談会」が放送されています。
東都新聞の記者吉岡がこの番組を自宅で見ていることから、吉岡は望月さんをモデルにはしていても、イコールではないと分かります。ということはこの劇中世界には望月さん的な女性記者が二人いることに……。
内調出向中の杉原も、その上司もみんなこの番組をチェックしている。そして画面の向こうから、政権を批判するコメントが聞こえてくる。なるほど、現実と劇中をパラレルにつなぐのね…というのはいいのですが、この劇中番組、どうも劇中では連日放送されているようなのです。え、三夜連続放送? と思わず突っ込みました。
以上三点、気になるところを突っ込ませていただきました。リアリティを出そうとしているからこそ、こういう細部が気になってしまうのですが、「この強力な政権に挑戦したことを評価せよ」という方には些末な指摘に思えるかもしれません。が、むしろ現実の記者の方々により強く期待しているからこそ厳しく評価せざるを得ないという面もあります。
『新聞記者』に関して、米国の映画『ペンタゴン・ペーパーズ』や『記者たち』を思わせるとの評もありました。いずれも鑑賞しましたが、これらはメディアが取材によって政治に一撃をくらわす結果を出したからこそドラマがあるのであり、まだ事件(であるとするなら、そ)の全貌が明らかになっていない加計問題を思わせる要素をいくら盛り込んでも、「政権を監視することを至上命題とするメディア関係者は、これで喜んでいる場合なのか?」と思わずにはいられません。
文・梶井 彩子/提供元・アゴラ 言論プラットフォーム
【関連記事】
・「お金くばりおじさん」を批判する「何もしないおじさん」
・大人の発達障害検査をしに行った時の話
・反原発国はオーストリアに続け?
・SNSが「凶器」となった歴史:『炎上するバカさせるバカ』
・強迫的に縁起をかついではいませんか?