参院選への影響はあるのか?
望月衣塑子さんの著書『新聞記者』(角川新書)が原案の映画『新聞記者』を早速鑑賞してきました。望月さんのこれまでの全著作を読んでいるウォッチャーとしては、この映画も見ないわけにはいきません。
なんと映画の「劇中座談会」に望月さん本人も登場! 前川喜平さん、新聞労組委員長の南彰さん、NYタイムズ日本支局長のマーティン・ファクラーさんとともに銀幕デビューです。
参院選前のこの時期に、官邸と政権の恐ろしさを国民に周知し、選挙への影響をも狙おうという野心的な作品。ネット上の感想を見ても「フィクションだけどフィクションじゃない!」「頑張っている」「ヤバい映画」「よくぞここまで」といったコメントがあります。
が、現在の日本政治の問題を告発すべく、現実の出来事を盛り込んだはずなのにリアリティを失ってしまったのではないか、というのが私の率直な感想でした。社会派・政治エンタメというジャンルにおいては評価すべき点もあるのかもしれませんが、正直「どれだけ現実の事件を思わせる話題を盛り込むか」に終始した感があります。
また、選挙への影響に関しても、女性ファッション誌『ViVi』と自民党のコラボ大炎上についてメディア史の専門家である佐藤卓己さんが朝日新聞で〈ViViの広告を見て読者が共産党から自民党に投票先を変えるような効果はありません〉と言っていたように、この映画も反自民、反政権の機運を盛り立てるという意味では効果は限定的ではないでしょうか。
役者の方々は迫真の演技で引き込まれる部分もありました。だからこそ、なるべくフラットに真摯な気持ちでお金を払って鑑賞したうえで、あえて言わせていただこうと思います。
以下、「新聞記者」のツッコミどころをあげたいと思います。内容に触れた部分もありますので、事前情報を極力入れずに映画を鑑賞したい方は、お気を付けください。
①内調ルームは節電中か?
W主演のひとり、松坂桃李さんが勤める杉原というエリート官僚。彼は外務省から内調に出向しており、上からの指示と自身の矜持との間で苦悩するのですが、彼が毎朝出社する内調の部屋が暗い。予告編でもご覧いただけると思いますが、「節電中ですか?」と聞きたくなるほど暗い部屋で、率直に言って、映画館で笑いをこらえるのが大変でした。
内田樹氏はこの暗さを「どよんと薄暗い青みがかった単色画面」が「そこにいる人たちの内面を表している」と評価していましたが、「ハッカーといえば、暗い部屋に画面だけ明かりがついていて、パーカーをかぶったままエンターキーをターンッ」といったようなステレオタイプな描写が揶揄されるこの時代に、これはないだろうと。
しかも、エリート官僚らは暗い部屋でぎゅうぎゅうに机を並べて何をしているかと言えば、ツイッターでの情報拡散。松坂桃李さんは『婦人公論』のインタビューで「内調は調べても、官僚の方に聞いても実態がよく分からなかった」とその得体の知れなさを吐露しておられましたが、暴くのは誰の仕事なのか。「新聞記者」では?