脳が無い動物も眠るようです。
10月7日に『Science Advances』に掲載された論文によれば、クラゲやサンゴの仲間(棘皮動物)で中枢神経が存在しないヒドラのような原始的な動物でも「眠る」ことが確認できたのだとか。
これまで睡眠は脳のある生物だけでみられると考えられてきましたが、今回の発見によって常識がくつがえされることになります。
しかし、中枢神経に依存しない睡眠とは、いったいどんなものなのでしょうか?
目次
脳が無い生物にみられる謎の休憩時間
脳が無い生物も「睡眠薬」で眠るだけでなく睡眠不足に陥る
脳が無い生物にみられる謎の休憩時間
睡眠はヒトをはじめとする哺乳類に限らず、魚類や昆虫など幅広い動物で確認されています。
しかしこれまでの研究において「眠る」ことが確認されてきたのは脳を持つ動物のみであり「睡眠と脳の存在は切り離せない関係にある」と考えられてきました。
事実、睡眠は脳の機能の維持にとって不可欠であることが示されており、睡眠の妨害が脳細胞を殺し、生物を死に至らしめることが多くの研究によって知られています。
一方で、近年の研究により、クラゲやサンゴ、ヒドラといった脳が存在せず、神経が体全体に均等に分布している原始的な動物でも、一定時間ごとに、まるで休憩をとるかのように、活動が停止することがわかってきました。
またこれら脳の無い動物は休憩時間に入ると、活動を停止させるだけでなく、刺激に対しても鈍感になるといった、まるで眠っているかのような状態に陥ります。
そこで日本の九州大学の研究者らは、進化的に脳を獲得していない動物でも、睡眠をとっている可能性があると考え、ヒドラを用いて検証を開始しました。
すると意外な事実が判明します。
脳が無い生物も「睡眠薬」で眠るだけでなく睡眠不足に陥る
研究者が詳細に観察した結果、ヒドラにも外観的には睡眠フェーズとも呼べる定期的な活動停止状態が存在していることが明らかになりました。
またこの睡眠フェーズは上の図のように、光パルスの照射によって覚醒状態へと変化させられることも判明します。
ただこの時点では、ヒドラの休憩がヒトなどの睡眠と同質だとは断言できません。
そこで研究者たちは、ヒトや魚類、昆虫など脳がある動物にとって広く「睡眠薬」となりうるメラトニンやGABAといった物質をヒドラに与えてみました。
すると、これらの睡眠にかかわる物質を与えられたヒドラもまた、活動停止状態に移行したのです。
このことは、脳が無い原始的なヒドラと脳があるヒトをはじめとした動物が、同じシステムによって眠っていることを示唆します。
またより睡眠の証拠を確実なものにするため、研究者たちはヒドラを睡眠不足にする実験を行いました。
ヒトや魚類、昆虫は睡眠不足になると共通の遺伝子が活性化することが知られています。
もしヒドラの休憩を邪魔することで、同じような睡眠不足にかかわる遺伝子が活性化する場合、ヒドラは眠るだけでなく、睡眠不足にも陥ると言えます。
そこで研究者たちはヒドラに定期的な振動を与えることで、ヒドラを持続的な覚醒状態に維持し、働いている遺伝子を調べました。
結果、強制的な覚醒はヒドラにおいてもヒトと同じような睡眠不足関連の遺伝子が41個も活性化していることが判明します。
この事実は、脳の無いヒドラの休憩が、脳があるヒトなどの睡眠と同質であることが遺伝子レベルで示されたことを意味します。