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細胞分裂スピードの違い
「がん」を殺す「がん」!?ハイパー腫瘍とは?

細胞分裂スピードの違い

また2014年に発表されたセバスチャン・マシアック氏による論文では、細胞の分裂速度に焦点が当てられています。

その論文によると、細胞サイズが大きいとその分細胞分裂が遅くなり、結果としてがん細胞が発生する確率も低下するとのこと。

加えて大型動物は一般的に基礎代謝率が低く、ゆっくりと細胞を分裂させるようです。

これら細胞分裂速度に関する要素が組み合わさることで、細胞の数が多くとも発がん率を低下させることができるというのです。

「がん」を殺す「がん」!?ハイパー腫瘍とは?

さらにハイパー腫瘍と呼ばれる「腫瘍の腫瘍」も、ピートのパラドックスを解決するうえで重要な仮説だと言われています。

がん細胞は本質的に不安定なので変質し続けます。

そのため増殖を続けることで、これまでとは異なった性質の細胞が生まれることもあります。この突然変異によって生まれた細胞はがん細胞の敵として振舞うのです。

つまり、がん細胞が健康な細胞を攻撃するようになったのと同様に、がん細胞を攻撃する新たながん細胞が生まれてしまうのです。

巨大なクジラはがんにならない!? 未解決問題「ピートのパラドックス」が起こる理由とは
(画像=腫瘍にできる腫瘍「ハイパー腫瘍」 / Credit:Kurzgesagt、『ナゾロジー』より引用)

まさに腫瘍にできた腫瘍です。これをハイパー腫瘍と呼びます。

このハイパー腫瘍は元のがん細胞を殺しますが、その後は健全な細胞も攻撃しはじめます。

しかし、このハイパー腫瘍にもいずれ新たな腫瘍が発生し攻撃されることになります。

大型動物の体内では、この「がん」が「がん」を殺すプロセスが繰り返されており、結果として深刻化に至っていないというのです。

さて、ピートのパラドックスを解明する3つの仮説をご紹介しました。

大型動物の発がん率が高くないのは、これらの1つが答えなのかもしれませんし、3つの要素が複合した結果なのかもしれません。

今後も研究者たちによってピートのパラドックスを解明する取り組みは続けられていくでしょう。

将来、この秘密を完全に解明することによって、がん治療の新たな扉が開かれるかもしれません。


参考文献

Kurzgesagt


提供元・ナゾロジー

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