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銃弾に耐え高温にも耐える軽いアーマーは存在しなかった
原理は「わたあめ製造機」

銃弾と高熱から兵士を守る多機能ナノファイバーが作られる! 「わたあめ製造機」に強度のヒントがあった
(画像=ナノファイバー繊維は強固な繊維で対弾性を確保し繊維間の空気で断熱性を確保している/Credit:Matter,『ナゾロジー』より 引用)

point

  • 対弾性と耐熱性の両方を備える単一のアーマー素材は物理学的に不可能だった
  • そこで研究者はあえてもろい「わたあめ」状のアーマー素材をケブラーポリマーで作ってみた
  • その結果、対弾性と耐熱性を備えた理想的なアーマー素材が完成した

銃弾に耐える強靭さと爆風の高熱を遮断する断熱性の両方に耐えた、多機能ナノファイバーが開発されました。

第一次大戦以来、戦死者の大部分は銃ではなく爆発で命を落としています。

突発的なゲリラ戦が頻発する現在においては、その傾向がさらに強まり、近年のアメリカ軍兵士の死者のほとんどは通常の戦闘ではなく即席爆弾(IED)によるものとなっています。

爆風がこれほどの殺傷能力を持つのは、破片による単純な破壊力だけでなく、爆発時に発生する高温ガスが原因でもあります。

ですが現在の技術では、単一の素材で対弾性と耐熱性の両方を備えることはできませんでした。

なぜなら対弾性には規則正しい分子配列が必要な一方で、耐熱性を持たせるには逆に分子構造の秩序性を緩めなければならないからです。

しかし今回、ハーバード大学の研究者は米陸軍戦闘能力開発コマンドソルジャーセンター(CCDC SC)と協力して、単一材料から対弾性と耐熱性の両方を備えたアーマー素材の開発に成功しました。

鍵となったのは「わたあめ製造機」です。

液化させたアーマー素材を「わたあめ製造機」のように回転しながら噴出させながら集めることで、規則正しい分子構造の繊維を持ちつつ、繊維の間に細かな空気の層を取り込んで、高い断熱能力も獲得したのです。

銃弾に耐え高温にも耐える軽いアーマーは存在しなかった

銃弾と高熱から兵士を守る多機能ナノファイバーが作られる! 「わたあめ製造機」に強度のヒントがあった
(画像=対弾性が高く耐熱性が高いものは右下に現れるはずだが、いまのところは存在しない。一番近いのはガラス繊維素材/Credit:Matter (文字はナゾロジー編集部記入),『ナゾロジー』より 引用)

どんな大きな銃弾も通さず、どんなに高熱の爆風にも耐える、軽くて丈夫な完璧なボディーアーマーがあれば、陸上戦で優位に立てます。

しかし実際にそのようなアーマーを作ることはできないでいました。

銃弾に耐えるためには金属やセラミックといった高度に規則正しく整列した分子構造を持つ素材が必要であり、熱に耐えるには逆に秩序性の低い(伝熱性の低い)分子構造の材料が必要だからです。

両方を備えるには、2つのアーマー素材を両方とも重ねて使う必要があり、そのような極端に重厚なアーマーは一般的な兵士の運動能力を超えてしまいます。

そのため、どちらかを獲得するには、もう一方の性能を諦めなければならないという「トレードオフ」の関係が存在していました。

耐弾性と防熱性を両方持つアーマーを着こなすには、非現実的な筋力を持つ兵士が必要不可欠だったのです。

原理は「わたあめ製造機」

銃弾と高熱から兵士を守る多機能ナノファイバーが作られる! 「わたあめ製造機」に強度のヒントがあった
(画像=この装置は「液浸ロータリージェットスピニング(iRJS)」と名付けられた。製造原理が同じため、できあがったナノファイバーはわたあめにソックリである/Credit:Matter,『ナゾロジー』より 引用)

しかし、発想の転換を行うことで耐久性が強く軽いアーマーを簡単に作ることができました。

本来脆いはずの「わたあめ」のような構造を、あえてアーマーに取り込んだのです。

わたあめはザラメを溶かして溶液状にしたものを、遠心力を使って小さな穴から噴出させて繊維状にしたものを集めることで完成します。

このわたあめですが…食べたことのある人なら、圧縮されたわたあめが意外に硬くて噛みちぎれないという経験をしたはずです。

これは、もろい飴の繊維であっても、無数に束ねて圧縮することで、強固になることを意味します。

研究者は、ザラメの代わりに強固な繊維を形成するアラミド繊維(ケブラーポリマー)を溶液に溶かし込み、わたあめ製造機のように遠心力を使って小さな穴から噴出させて繊維を作り、それを圧縮しました。

結果、繊維部分に規則正しい分子構造を持ちつつ、間に無数の空気を含んだ耐熱性の高いナノファイバーシートが完成しました。