続発する性的虐待事件
それだけではない。昨年5月にはミュンヘン・フライジング大司教区のラインハルト・マルクス枢機卿がフランシスコ教皇宛てに大司教辞任申し出の書簡を送った。同枢機卿の辞任申し出の意図について、さまざま憶測が流れた。
マルクス枢機卿(67)はフランシスコ教皇の信頼を得ている枢機卿顧問会議の1人だ。2012年から20年2月まで、独司教会議議長を務めてきた。その枢機卿が突然、辞任を申し出たのだ。理由は同枢機卿が2007年11月から担当してきたミュンヘン・フライジング大司教区で過去発生した聖職者による未成年者への性的虐待事件に対して「指導者としてその責任を取りたい」というものだった。それに対し、フランシスコ教皇は昨年6月10日、同枢機卿の辞任申し出を受け取らなかった。
マルクス枢機卿が責任を感じた「過去の問題」とは、具体的にはミュンヘン・フライジング大司教区での聖職者の不祥事だが、ベネディクト16世もラッツィンガー時代、1977年に同大司教区の大司教に任命され、81年末までその聖職を務めていたことから、責任追及の矛先が名誉教皇ベネディクト16世に向けられた。
ミュンヘン大司教区が弁護士事務所に調査報告を要請し、その調査報告書が1月20日公表されたばかりだ。その結果、「ベネディクト16世は大司教時代、少なくとも4件、聖職者の性犯罪を知りながら適切に指導しなかった」と批判されている。ベネディクト16世は今月、聖職者の性的虐待事件の犠牲者から責任を追及され、訴訟が起こされた、といった具合だ。
「私たちの教会は何かが壊れている」。これは、イエズス会のアンスガー・ヴィーデンハウスが南ドイツ新聞とのインタビューで述べた言葉だ。聖職者の性犯罪、それを隠ぺいしてきた教会の指導者に対し、「このような教会に所属することは道徳的にも間違っているのではないか」といった罪悪感を抱く信者が増えてきているという。
神はキリスト教初期時代、信者たちが迫害に耐え、結束を堅持するために守りの館として教会を創設したが、教会が神から離れていく時、教会は神への信仰の手助けとなるどころか、障害となってきたからだ。
モーセが60万人のイスラエル人を引き連れ、神が約束したカナンに向かって「出エジプト」したように、多くの敬虔なキリスト者たちは教会という組織から出て、神が本来願われてきた世界を探し出してきた。ただ、どこへ行けば神に出会えるのか、はっきりとしたビジョンがあるわけではない。現代人は、砂漠を彷徨しながら羊飼いを探す羊の群れともいえるわけだ。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2022年6月29日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。
文・長谷川 良/提供元・アゴラ 言論プラットフォーム
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