緊急提言の具体的主張

3年先予定の第7次エネ基を待つ余裕はない。国家安全保障体制の強化の観点からエネルギー安定供給体制構築のために早急に着手すべき政策課題並びに政策転換の成果を確実に導くため、緊急提言を提示する。

【提言1】再エネ主力電源化構想を見直し現実路線へ転換せよ

第6次エネ基で主力電源として最大限導入するとされた再エネのうち、変動再エネ(太陽光発電、風力発電)の大量導入には重大課題があり、今後慎重で透徹した評価検討が必要である。

・変動再エネは給電指令に応じた発電ができず、需要と供給のバランス維持が困難で広域ブラックアウトのリスクが生じる。
・再エネ主力電源化により電力コストは今以上に上昇し、再エネ賦課金も増加して、国民生活と産業競争力を堅持する経済性の確保が大きな課題である。
・再エネ設置には自然条件、社会的制約、環境問題などで、我が国では導入量に限界があり現実的な再エネ導入ポテンシャルを見極める必要がある。
・太陽光パネル、風力発電設備、蓄電池は海外が先行、特に中国が市場を席巻しており海外依存リスクの懸念が大きい。
・再エネ主力電源化構想は極めて根拠の薄い楽観論である。現実的に利用可能な容量の再エネを活用する方針に転換することが国益に叶うものと考える。

【提言2】既設原発の再稼動促進と共に、新増設・リプレースの方針を早期に明示してエネルギー安定供給に備えよ

東電福島事故以降、政府は原発と正面から向き合うことから逃げ回り我が国の原子力政策は漂流してきた。

・全ての原発の運転年数を60年としても2030年以降も安定電源を確保するには新規原発建設は不可避である。計画立案から発電開始までに長期間を要すこと、専門的人材とサプライチェーンの確保・維持の観点から原子力の持続的活用方針の明確化は待ったなしである。
・世界的なエネルギー危機で多くの国が原発回帰の機運にある中、資源小国の我が国こそ、原発の積極推進を図るべきで、原発の新増設・リプレースを明確に謳うことを要請する。

【提言3】原子力規制を適正化(合理化、迅速化、予見性付与)せよ

原子力規制委員会は、適合性審査に時間がかかる理由を厳格な新規制基準に基づく慎重な審査と電力事業者の対応遅れとしているが、規制上の問題点(許認可の非予見性・審査の長期化・事業者とのコミュニケーションの悪さ)は、国民目線でも枚挙に事欠かない。

・原子力規制委員会の許認可審査期間が行政手続法で定める2年を大幅に超え、最近では8年以上にも及ぶ長期を要していることが原子力活用の最大の障害となっている事実を真摯に反省し、規制の適正化改善の手を打つべきである。
・原子力規制委員会は、「規制のための規制」から原子力基本法に則り「原子力利用のための規制」とすべく規制業務の改善、適正化について国益に即し国民の期待に沿うべく注力されることを強く求めるものである。

【提言4】火力発電の有効活用の為に非効率火力発電のフェードアウト先延ばし、最新の高効率火力発電の新設など投資環境の整備改善を進めよ

火力発電は安定・安価の電力供給や災害時等の即応可能な電力として重要な電源で、特に現下の電力逼迫事態対応には不可欠で、再生エネの変動を補う調整供給力としても重要である。

・非効率火力発電所のフェードアウトの時期を先延ばしするとともに、最新のクリーンで高効率な火力発電の新設、最低負荷の切り下げを可能にするために、容量市場など投資環境を改善する政策を早急に打ち出すべきである。

【提言5】CO₂回収貯留・リサイクルの公共事業化への環境整備をすすめよ

アンモニア・水素等の脱炭素燃料の混焼やCCUS等により火力発電の脱炭素型への移行を着実に推進する必要があり、とりわけCCUS/カーボンリサイクルは火力発電の脱炭素型への移行に有望であるが、CO₂の商品価値がゼロであるため民間では実装のハードルが高い。

・政府は、米国での税額免除法制化など諸外国のCCS導入促進インセンティブを参考し、貯留に必要な適地開発、技術開発、輸送実証、法整備、許認可、管理責任を含め、国の公共事業としての事業環境と諸制度の整備を進めるべきである。

【提言6】石炭火力発電の最新技術で途上国支援を進めよ

発展途上国は使いやすく経済的な石炭火力を依然として必要とし、日本のクリーンで高効率な火力発電は大いに期待されている。

・次世代の高効率石炭火力発電技術である石炭ガス化複合発電(IGCC)や石炭ガス化燃料電池複合発電(IGFC)の輸出に対し、政府開発援助、輸出金融、投資、金融・貿易促進支援等政府による国際的な支援をすべきである。

おわりに

以上の通り、緊急提言の要旨を紹介したが、今後この緊急提言を広く世の中に発信すると共に、国会議員や経産省等関係省庁にも説明して、エネルギー安定供給の構築に係る諸施策に取り入れて頂けるようお願いしていきたいと考えている。

文・小川 修夫

文・小川 修夫/提供元・アゴラ 言論プラットフォーム

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