SF世界のワープ航法が現実になるかもしれません。

現在、宇宙はあまりに広大すぎて、人類が光速での移動を実現できたとしても、人の寿命では隣の星系まで行くことができません。

そのため、数々の宇宙時代を描いたSF作品には空間を超越して移動するワープ航法が登場します。

現実の物理学で、このアイデアにもっとも近い可能性を与えているのがワームホールです。

これは簡単に言うと、一般相対性理論から導き出される時空をつなげるショートカットトンネルです。

ただし古典物理学に従えば、ワームホールは存在したとしても横断することはできないとされています。

しかしこの度、量子物理学の研究者が「Humanly traversable wormholes (訳: 人間が横断可能なワームホール)」と題した興味深い研究を発表し、その中で完全に安全な通行が可能なワームホールの可能性を示したのです。

目次
そもそもワームホールとは?
安定したワームホールを作るには?

そもそもワームホールとは?

ワームホールは時空のある地点から別の地点へ、光速を超えた瞬時の移動を実現する手段です。

ワームホールは次元を超えたショートカットトンネルと考えることができます。

例えば世界を1辺が1光年ある巨大な紙だったと考えてみましょう。紙の端から端まで行くには光の速度で移動しても1年かかってしまいます。

しかし、この紙を端と端を合わせて折りたたんだ場合はどうでしょうか? 畳んで出発地点とゴールを合わせてしまえば、1光年の距離を隔てていようと、移動時間は0にできてしまいます。

これを私たちの住む時空で考えたものがワームホールです。

時空をつなげる「ワームホール」を”人間が横断できる”可能性が示される!
(画像=Credit:Panzi – en Wikipedia、『ナゾロジー』より引用)

私たちの住む時空は、私たちが気づいていないだけで高次元上では折りたたまれて、はるか遠い場所と隣り合っている可能性があります。

このことをアメリカの物理学者ホイーラーは、りんごの反対側へ行くのに表面をなぞって移動するより、中を突っ切った虫食い穴を通ったほうが速く移動できる、という例え話で説明しこの虫食い穴のショートカットトンネルをワームホールと名付けたのです。

ワームホールは現実の世界でも存在することが理論上認められています。その基礎的な理論は20世紀初頭にアインシュタインの一般相対性理論に対応する形で登場しました。

しかし初期にアインシュタインとローゼンが計算したワームホールは、非常に不安定ですぐに崩壊してしまうため、中を通り抜けるということは不可能だと考えられていました。

安定したワームホールを作るには?

時空をつなげる「ワームホール」を”人間が横断できる”可能性が示される!
(画像=Credit:depositphotos、『ナゾロジー』より引用)

ワームホールを安定させるためには、負のエネルギーが必要になります。

これは古典物理学では許されていませんが、量子物理学の世界では「カシミール効果」で存在が確認されています(カシミール効果については、こちらの記事を参照)。

しかし、量子物理学は古典物理学では扱えない非常に小さな世界でのみ適用される理論です。負のエネルギーも存在するとしても、それは非常に小さいものでした。

今回の研究を発表したプリンストン高等研究所のMaldacena氏とプリンストン大学のMilekhin氏は、この効果が巨大な磁気を持つブラックホールでは、かなり大きくなることに気づきました。

新しいアイデアでは、荷電したゼロ質量フェルミオン(電子のような粒子だが質量は0の粒子)を、ブラックホールの磁力線に沿って移動させた場合、周囲の空間が平坦であれば粒子は円を描くように移動して閉じた空間を作り、ここでカシミール効果が真空エネルギーに働きかけ、負のエネルギーを持つことができると説明しています。

ここで発生する負のエネルギーの存在は安定したワームホールを維持させることができるのです。