世界人口の増加に伴い、食料は今後ますます必要になってきます。
しかし地球温暖化や熱波などの異常気象の増加により、作物の生産が難しくなっています。
人類はこの問題に対処できるでしょうか?
理化学研究所(理研)に所属する関 原明(せき もとあき)氏ら研究チームは、エタノールが植物の高温耐性を高めることを発見しました。
レタスもお酒を与えるとストレス耐性が高まり、高温でも元気に育ったのです。
研究の詳細は、2022年6月22日付の科学誌『Plant Molecular Biology』に掲載されました。
目次
エタノールを投与すると植物に高温耐性がつく
作物の「ストレス耐性」を高めるには?
エタノールを投与すると植物に高温耐性がつく
関氏ら研究チームは、以前から植物の耐性を高めるための研究を行ってきました。
実際、2017年の研究では、植物が被る塩害に対して、高い耐性を持たせることに成功しています。
その方法はシンプルで、「植物にエタノールを投与する」というものでした。
エタノールはアルコールの一種であり、私たちが飲むお酒の主成分でもあります。
つまりお酒を与えることで植物の塩耐性が高まったのです。
ちなみにエタノールには安価で入手しやすいというメリットがあるため、作物の耐性を高める将来有望な材料だと言えます。
では、同様の方法で、他の耐性も高めることができるのでしょうか?
今回研究チームは、エタノールを植物に投与することで、高温耐性が高まるか実験しました。
ポットに植えられたシロイヌナズナ(モデル植物としてよく利用される)とレタスを、エタノール水溶液が入ったトレーに3日間置くという方法で、エタノールを投与したのです。
その結果、50℃という環境下で、植物の生存率が上昇しました。
つまりお酒を与えることによって、植物の高温ストレス耐性も向上していたのです。
写真を見るとエタノール処理の有無で、シロイヌナズナの生存率やレタスの生育の程度が大きく異なると分かります。
では、どうしてエタノールを投与することで、植物の高温耐性が向上したのでしょうか?
作物の「ストレス耐性」を高めるには?
まず、植物がもつストレス耐性のメカニズムについて考えてみましょう。
作物が環境の変化でダメになってしまうのは、なぜでしょうか?
その原因の1つには、「小胞体(しょうほうたい)」が関係しています。
小胞体とは、動植物の細胞内に存在する小さな器官です。
ここでは動植物が生存していくのに欠かせないタンパク質の加工(フォールディング)が行われています。
しかしこの加工プロセスは、外部の刺激(環境ストレス)に非常に敏感です。
そのため高温や乾燥、病害などが原因で、タンパク質を正しく加工できず、不完全なタンパク質を蓄積してしまうのです。
タンパク質が正しく加工されないので、作物であれば当然元気に育たず、ダメになります。
しかし生物は優秀なので、この「タンパク質の加工失敗」に対処するシステムも持ち合わせています。
それが「小胞体ストレス応答(UPR)」と呼ばれる機能です。
これによって、作物はある程度の環境ストレスに耐えられる、というわけです。
では、もっと大きな環境ストレスに耐える作物を生み出すにはどうすれば良いでしょうか?
小胞体ストレス応答をパワーアップさせれば良いのです。