結婚式の贈り物として知られる海綿「偕老同穴(カイロウドウケツ)」のケイ素骨格は、次世代の高層ビルのヒントになるかもしれません。
9月21日に『Nature materials』に掲載された論文によれば、雌雄2匹のエビを死ぬまで内部に捕えている、偕老同穴として知られる海綿動物の骨格パターンが、現在建築で使われている格子状構造よりも遥かに強靭であることが示されました。
偕老同穴は、いったいどんな構造を秘めていたのでしょうか?
目次
偕老同穴(カイロウドウケツ)とは何か?
カイロウドウケツの骨格は既存のどの格子骨格よりも優れていた
偕老同穴(カイロウドウケツ)とは何か?
日本の相模湾や駿河湾の海底には、偕老同穴(カイロウドウケツ)と呼ばれるガラスの骨格を持った海綿動物が生息しています。
この海綿たちは海底に根を張り、地中からケイ酸を吸収することで、ガラス(二酸化ケイ素)骨格を作ることが知られています。
現在の人類の科学では砂からガラスを作るためには砂を溶かす高温の過程が必要になりますが、偕老同穴はこの高エネルギーのプロセスを生物がもつ温度で達成可能していたのです。
また作られる骨格も非常に強固であり、既存の光ファイバーよりも強靭さで優っているとのこと。
偕老同穴は厳密な意味でのケイ素生命ではありませんが、ケイ素を取り込んで自らの骨格に利用している地球生命は、非常に珍しいと言えるでしょう。
また、この海綿の奇妙な名前は表面の作りではなく、内部に由来していました。
ガラス製の骨格は内側が空洞になっており、多くの場合、雌雄2匹のエビを死ぬまで捕らえ続ける生態を持っています。
エビたちは雌雄が決まる前の幼生の段階で偕老同穴の内部に入り込み、やがて成長して骨格の隙間より大きく成長して出られなくなってしまうのです。
ただ生活の範囲が限られる一方、エビにとってはガラス骨格に守られ、好きな時に相手の異性と子孫を作ることが可能になる恩恵がありました。
日本では古くから、この不思議な海綿動物を、内部に棲むエビたちの運命になぞらえて「一緒に老いて同じ墓穴で死ぬ」という意味の四字熟語である「偕老同穴(カイロウドウケツ)」と呼び、結婚式の縁起物として用いてきました。
一方今回、ハーバード大学の技術者たちは、偕老同穴のガラス骨格の形状に着目しました。
技術者たちは内部に棲む2匹のエビの一生よりも、表面の見事なガラス骨格に興味をひかれたようです。
カイロウドウケツの骨格は既存のどの格子骨格よりも優れていた
一般的に四角形に組まれた構造物の対角線上に、斜めの支えを入れるとその強度が増加します。
この発見は1820年に特許を得て以降、世界中のあらゆる格子状の構造物に利用されてきました。
しかし今回、ハーバード大学の技術者たちは既存のどんな格子状の構造物よりも強固な構造パターンを、偕老同穴のガラス骨格から発見しました。
新たに発見された偕老同穴の構造は、上の図のように基本的な格子に2本の平行な支えを加えることで完成します。
また図のような荷重実験(座屈強度測定)を行った結果、この構造は同じ重量からなる、既存のどの格子状構造よりも強度が20%も増していることが判明しました。
人類が斜めの支えの有用性に気付いたのは比較的最近ですが、偕老同穴は遥かに昔から、より優れた構造を採用していたようです。
また計算の結果、構造の特性も明らかになりました。
単純な四角格子構造は一見、最も均等な配置に思えますが、実は上からの荷重を担当するのは主に縦の線だけであり、うまく力を分散することができません。
しかし2本の斜めの支えは、荷重をより均等に分散させることで弱点を作りにくくし、結果として重さに耐えることができたのです。