鳥やクジラをはじめ生き物の中には、地球の微弱な磁場を感じ取る能力があると知られています。

これには磁場を感じ取る細胞が関連していると考えられていますが、それがどうやって機能しているかは未だ謎に包まれています。

『米国科学アカデミー紀要(PNAS)』に掲載された東京大学の研究チームによる新しい研究は、その重要なピースとなる、生きた細胞が磁場に反応する様子の観察に成功したと報告しています。

細胞は一体どうやって磁場に反応しているのでしょうか?

細胞が磁場を感じ取る原理

動物の第6感解明に一歩前進。「磁場に反応する細胞」を初めて観察することに成功!(東京大)
青色光受容体タンパク質クリプトクロム。 / Credit:Wikipedia(画像=『ナゾロジー』より 引用)

一部の動物たちは、網膜細胞にクリプトクロムというタンパク質を持っています。

これは青色光受容体という青い光に過敏に反応するタンパク質ですが、これが磁場を感知している原因と目されています。

過去の研究では、ハエやゴキブリなどの昆虫の遺伝情報を操作して、このクリプトクロムを妨害すると、地磁気を手がかりに行動する能力が失われることが確認されています。

しかし、このクリプトクロムは実際どうのようにして磁場を感じ取っているのでしょうか?

そこで注目されている仮説が、ラジカルペアメカニズムと呼ばれる化学反応です。

特定の分子が光によって励起されたとき、分子の持つ電子は、隣接する分子へジャンプすることがあります。

すると分子は最外殻の電子を1つ失った不安定な状態「ラジカル」と呼ばれるものに変化し、ラジカルペアという単一の電子を持つ分子のペアを作成します。

このとき、重要となるのがラジカルペアの持つ電子のスピン状態です。

スピンとは量子力学で語られる電子の持つ性質のことで、自転する電子の回転軸の向きとして説明されています。

動物の第6感解明に一歩前進。「磁場に反応する細胞」を初めて観察することに成功!(東京大)
スピンは電子の持つ自転的な性質とされる。実際には量子状態であり本当に自転しているわけではない。 / Credit:科学技術振興機構,ERATO SQR Project 2015,齊藤 英治(画像=『ナゾロジー』より 引用)

ラジカルペアで、この電子スピンが一致している場合、化学反応はゆっくりと起こります。しかし、電子スピンがペアで反対になっている場合、化学反応は速くなるのです。

電子のスピンは磁石の起源であるとも言われており、電子スピン状態は非常に微弱な磁場でも変化する可能性があります。つまり、地球磁場のような弱い磁場でも、ラジカルペアの化学反応に影響が起こる可能性があるのです。

動物の第6感解明に一歩前進。「磁場に反応する細胞」を初めて観察することに成功!(東京大)
電子スピンと磁力には関連があるとされている。 / Credit:科学技術振興機構,ERATO SQR Project 2015,齊藤 英治(画像=『ナゾロジー』より 引用)

そして、クリプロクロムはこのラジカルペアメカニズムを受ける分子であると考えられています。

今回の研究チームは生細胞を利用して、そのクリプトクロムが磁場に反応する様子を初めて観察したのです。