攻撃型原潜保有の議論の前に

具体的な「原潜保有議論」を扱う前に、抑止論を考える際に重要な観点を得るために、ある記事を参照致します。会員制月刊誌『公研』が公開した記事(2021年11月号)『抑止力とは何か? 日本が直面する安全保障環境』(高見澤將林氏と村野将氏の対談)です。特に村野将氏(ハドソン研究所研究員)は日米防衛協力に関する政策研究の専門家ですが、彼の言葉が今回の議論を考えるうえで大いに役立ちます。

昨年末ごろの記事ですが、村野氏が今回の『原潜保有』検討にも大切な視座を提供しているので、その議論を参考に重要な視点を抽出します(同記事上で展開されている議論の正確な内容は、必ず記事原文をご確認ください)。

【防衛力整備を考える際の要点】

  1. 最初に「どのような目的を達成するのか」を考える
  2. 相手の戦力態勢や運用ドクトリンを徹底的に分析評価する
  3. 具体的な危機シナリオを決める
  4. セオリー・オブ・ビクトリー(勝利の方程式)を構築する
  5. 不足している能力を優先的に埋めて行き防衛力を整備する
  6. 発想する際に留意すべき点は、個別のプラットフォーム・ベース(戦闘機・ミサイルなど)の考え方に留まらないこと

日本の防衛力整備に欠かせない観点

「原潜保有」に対する防衛政策上の評価については専門家も交えた議論に期待します。そのうえで、前項で得た各視点をもとに、国民玉木代表の提案と既存の防衛政策論とを比較します。また海洋を舞台とした戦略を考える際には、他党の政策よりも戦前の日本が実際に採用していた国防政策(のうちの海軍)のほうがより参考になるので、それらを比較します。

「原潜保有」議論、国民・玉木代表が党首討論を一歩リード
(画像=『アゴラ 言論プラットフォーム』より引用)

玉木代表の「最も憂慮すべき現実的な脅威は潜水艦から発射される核搭載ミサイル(SLBM)」という前提条件(仮説)の設定は、確かに重要な指摘だと考えます。しかし、そこから「ゆえに攻撃型原潜を保有すべきだ」という結論には、やや論理の飛躍を感じます(肯定も否定もしません)。

建造費が数千億円から一兆円という原潜を数隻持ち打撃力を充実させることのメリットデメリット、あるいは通常動力型の潜水艦部隊の規模を拡大したり探知能力を高めたりする他の装備との比較など、考察すべきポイントは豊富に存在するのでいきなり判断はできません。

確かに過去の日本においては原潜保有の意義は高くありませんでした。その大前提に「圧倒的な米軍のプレゼンス」と「専守防衛」政策があったからです。日本が「楯」として専ら防衛にあたり、米軍が「矛」として反撃するという役割分担の考え方です。

しかし仮に現時点ではまだ米軍が優位を保っているとしても、10年から20年後を想像するならば、景気変動等の不確定要素次第では米軍と日本の自衛隊を合わせても脅威に対抗しきれない可能性もあると考えます。原潜の開発と更新で巨額の費用がのしかかる米国も、同盟国日本の合力は拒絶しない可能性も少なくないでしょう。

またロシアによるウクライナ侵略が示した現実は「『専守防衛』がもたらすのは大惨事と国土の荒廃」という実相でした。「圧倒的に優位な米軍の存在」を前提とする「専守防衛」政策は、もはや幻となった可能性が高いのです。

仮にそうであるならば、日本が今なすべきことは、「『専守防衛』を前提として蓄積してきた各種の戦略を学習棄却し、新たな現実的を正視して、それに対応する国防政策を打ち立てること」ではないでしょうか。

まとめ

「原潜保有」というテーマに関して、専門家を交え与野党で真に意味のある議論が行われること、そして「結論ありき」ではなく「100%政治的駆け引き」でもない論理的、理知的、純国防論的議論を期待しております。

堂々たる論陣を張り、政権の座を争う力のある野党が存在してはじめて、政府与党側にも緊張感が生じ、結果として日本の政治が活力を取り戻すのではないでしょうか。

文・田村 和広/提供元・アゴラ 言論プラットフォーム

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