人工生命に自発的な増殖能力が与えられました。

3月29日に『Cell』に掲載された論文によれば、最新の人工生命体(JCVI-syn3A)に、自発的な成長と分裂を行う能力が与えられたとのことです。

成長と分裂は生命の基本であり、人工生命がこれら能力を獲得することは、生命科学の歴史において革新的な出来事だといえます。

目次
成長し分裂する人工生命体を開発!
未知の遺伝子が細胞分裂に決定的な役割を果たしていた

成長し分裂する人工生命体を開発!

自発的に成長し分裂する「人工生命体」が開発される
(画像=5年前に開発された人工生命体「JCVI-syn3」 / Credit:TomDeerinck . MarkEllisman、『ナゾロジー』より引用)

無から生命を作る生命創造は、生物学者の長年の夢でした。

近年の合成生物学の進歩は、生命創造を人間でも可能な技術に置き換えています。

5年前、研究者たちは473個の遺伝子を持つDNAを合成し、抜け殻となった細胞の内部に注入して人工生命体「JCVI-syn3」を創り出すことに成功しています。

自発的に成長し分裂する「人工生命体」が開発される
(画像=人工生命体は化学合成されたDNAとDNAを抜き取られた細菌を合わせて作られる / Credit:ナゾロジー、『ナゾロジー』より引用)

合成された473個の遺伝子は生命の成長と分裂に必要な要素を厳選したものであり、人工生命体「JCVI-syn3」は増えることのみを目的とした存在だといえました。

しかし増殖実験を行った結果「JCVI-syn3」は不完全であることが判明します。

細胞分裂が正確ではなく、分裂してできた細胞が奇形になってしまったのです。

原因は、遺伝子数の不足でした。

厳選された473個の遺伝子は、細胞の成長と分裂に必要な遺伝子を網羅したはずでしたが、失敗という結果は、人類がまだ知らない未知の遺伝子が細胞分裂には必要であることを示しました。

そこで今回、研究者たちは再度、遺伝子の厳選作業を行い、新たに19個の遺伝子を追加した最新の人工生命体「JCVI-syn3A」を作ることに成功しました。

最新型は、正常な細胞分裂をおこなえたのでしょうか?

未知の遺伝子が細胞分裂に決定的な役割を果たしていた

自発的に成長し分裂する「人工生命体」が開発される
(画像=人工生命体「JCVI-syn3A」が増えていく様子 / Credit:Cell、『ナゾロジー』より引用)

最新の人工生命体「JCVI-syn3A」は正常に分裂できるのか?

実験を行った結果は極めて良好でした。

「JCVI-syn3A」は前世代の「JCVI-syn3」に比べて奇形が大幅に少なく、正常な細胞分裂が可能であることが判明します。

次に研究者たちは、新たに加わった19個のうち、どれが機能しているかを確かめるために、19個の遺伝子を順番に破壊して、分裂能力に影響が出るかを調べました。

結果、19個のうち7個が分裂能力に影響していたと判明します。

また興味深いことに、この7個の遺伝子のうち、既存の知識で細胞分裂に必要だと考えられていたのは2個のみであり、残りの5個(いずれも小さい遺伝子)がなぜ正常な細胞分裂に必要なのかは不明でした。

この結果は、細胞分裂における人類の既存の知識が、予想より未熟であることを示しているのかもしれません。