若者が高齢者に席を譲ったり、階段を登る時に手を差し伸べてあげたりする場面を見かけたことがあるでしょう。
これは、人間がもつ「心の理論」または共感能力による行動です。ヒトは自分と違った状況にいる相手を思いやり、理解できるのです。
そして、アメリカ、コロンビア大学のコンピューター科学者ボユアン・チェン氏ら研究チームは、1月11日付けの科学誌『Scientific Reports』にて、視覚情報から相手が好む行動を予測できるAIを作成しました。
これは共感能力の1つであり、複雑な社会的能力を備えたAIの作成に寄与します。
目次
心の理論とは
AIに視覚情報と推論によって限定的な共感能力をもたせる
新しいAIは視覚情報からロボットの判断基準を理解し、正しく予測する
心の理論とは
「心の理論」とは人間がもつ共感を伴う能力のことであり、3歳ごろには培われると言われています。
そして心の理論の有無を知るために役立つのが「サリーとアン課題」です。
サリーとアン課題
①サリーとアンが、部屋で一緒に遊んでいる
②サリーはボールを、かごの中に入れて部屋を出て行く
③サリーがいない間に、アンがボールを別の箱の中に移す
④サリーが部屋に戻ってくる
質問:サリーはボールを取り出そうと、最初にどこを探すか?
正解:かごの中
ほとんどの人は自分の視点とサリーの視点を区別して考えることができます。そのため「自分は別の箱の中にボールが入っているのを知っているが、サリーは知らない」との結論を出せます。
これはヒトが共感するために不可欠な能力だと言えるでしょう。
そしてこの心の理論によって私たちは、「健康な自分にとっては簡単でも、足腰が弱い人の立場になって考え、助けてあげる」などの人間特有の社会的相互作用を生み出します。
そのため、ロボットが人間との社会的相互作用を生み出すためには、AIに心の理論を与える必要があります。
これは非常に難しく、達成するにはまだまだ長い年月が必要ですが、新しい研究では限定的な共感能力をもったAIの開発に成功しました。
AIに視覚情報と推論によって限定的な共感能力をもたせる
チェン氏らはヒトがもつ心の理論が、視覚情報と推論から得られていると考えました。
例えば、健康な若者は、高齢者が体を動かすのを辛そうにしている場面を何度も見ることで次第に共感できるようになります。
「おじいさんは立ち上がる時にいつも膝が痛そうにしている」という視覚情報から、「きっと次に立ち上がる時にも膝が痛むだろう」と推論するのです。
そしてチェン氏らは、同様の能力をAIに与えることに成功しました。そのことは、次の実験で証明されています。
まず1つのロボットには、視野内で最も近い緑色スポットに移動するようプログラムしました。
時折、研究チームは赤いブロックによって最も近い緑色スポットが見えないようにし、ロボットが遠い緑スポットに移動するよう細工。
そして、ロボットがひたすらこのタスクを繰り返している様子を上方に設置したカメラを通してAIに2時間観察させ続けました。
これによりロボットと観察AIには視点の違いが生まれました。ロボットには見えていない部分がありますが、観察AIは俯瞰視点によってすべて見えているのです。