少子化問題は何も日本だけの問題ではなく、現在多くの諸外国でも見られている傾向です。

そして、その原因となるかどうかはまだ明確ではありませんが、アメリカの生殖医療の専門医によると、男性不妊の割合が増加傾向にあり、その50%近くが不妊の原因を特定できていないと述べています。

バージニア大学泌尿器科准教授ライアン・P・スミス氏によると、その原因はもしかすると大気汚染、農薬、電子機器による放射線など環境毒性にあるかもしれないといいます。

単にパートナーがうまく見つけられないというだけでなく、全体的に人類の生殖能力が弱っているのだとしたら、それは由々しき問題です。

目次
男性が要因となる出生率の低下
謎の減少を続ける男性の精子
不妊症への対処の難しさ

男性が要因となる出生率の低下

出生率の低下について、日本では主に未婚者の増加にスポットが当てられることが多く、不妊症が着目されることはあまりありません。

当然結婚して子供を作ることに興味のない人が多いことは、大きな要因と考えられます。

しかし、海外では望んでも子供が生まれない不妊症の増加についても多くの報告があがっているのです。

不妊症とは、避妊せずに定期的な性交をおこなっているにも関わらず、カップルが1年間妊娠できない状態と定義されています。

米国では、現在8組に1組のカップルが不妊症に悩んでいます。

不妊症といわれたとき、自然と女性側の問題と考えてしまう人も多いかもしれませんが、当然半分の原因は男性側にあります。

男女双方の要因が絡む場合もありますが、男性側が原因であった場合はこれを男性不妊症と呼びます。

「男性の不妊」が1990年以降から激増している、少子化問題は未婚の人が増えているだけではない?
(画像=不妊症は男女双方の要因が絡むが、男性が原因の場合男性不妊症と呼ばれる / Credit:depositphotos、『ナゾロジー』より 引用)

男性側の出産に関する評価を行う場合、それは精液分析が基礎となります。

精子数(男性が生成する精子の総数)と精子濃度(精液1mlあたりの精子の数)は一般的な指標とされていますが、これだけでは出産の最適な予測因子となりません。

より正確に測定するためには、精子の運動率(泳いだり動いたりできる精子の割合)を調べます。

男性不妊症は、肥満からホルモンの不均衡、または遺伝病など、さまざまな要因が影響すると考えられますが、ほとんどの原因に対して役立つ治療法が存在しています。

ところが、1990年以降、研究者はある異常な傾向が発生していることに気づきます。

それは男性不妊症について、30%~50%近い割合が原因を特定できなくなっていたのです。

謎の減少を続ける男性の精子

「男性の不妊」が1990年以降から激増している、少子化問題は未婚の人が増えているだけではない?
(画像=多くの研究から男性の精子の減少傾向が確認されている / Credit:canv、『ナゾロジー』より 引用)

1992年に発表された研究では、過去60年間で男性の精子数が世界的に50%減少していると報告されています。

その後、男性の精子濃度が低下していることを示す複数の研究がまとめられ発表されました。

2017年にはこうした研究を元に、1973年~2011年の間における世界中の男性の精子濃度が50%~60%低下していることを示す論文も報告されました。

これらは非常に重要な報告ですが、主に男性の精子総数や精子濃度に焦点を合わせています。

そのため、2019年には男性の精子の運動率に焦点を当てたより強力な男性不妊症に関する研究が行われました。

その結果、過去16年間で男性の精子の運動率は約10%低下していたことが新たに発見されたのです。

科学的調査は一貫して、今日の男性は、以前に比べて精子の生産量が低下しており、精子の健康状態も劣っていることを示していました。

この問題は、現在進行している各国の出生率の低下に影響している可能性があります。

そして何より問題なのが、このような傾向が進んでいる原因が未だわかっていないということです。

今回の報告をまとめているバージニア大学泌尿器科准教授ライアン・P・スミス氏は、それが環境毒性と関連している可能性を指摘しています。

環境毒性は、健康に影響を与える化学物質などの汚染のことで、粒子状物質(PM)、二酸化硫黄、窒素酸化物などはその代表で、特に精子の質に寄与する可能性があります。

「男性の不妊」が1990年以降から激増している、少子化問題は未婚の人が増えているだけではない?
(画像=男性不妊症の増加は、環境汚染が関連しているかもしれない / Credit:canva、『ナゾロジー』より 引用)

米国では、8万を超える化学物質が登録されていて、毎年2000近い新しい化学物質が導入されています。

それが人間の健康に対して及ぼす長期的なリスクについては、十分に検証できているとはいえません。

携帯電話、PC、モデムなどの電磁波が精子数や、精子の運動性に関連している可能性も考えられます。

もちろん、こうしたライアン氏の推測を裏付けるような証拠が明確に見つかっているわけではありません。

しかし、ここ数十年の間に起きた変化として相関性を考えると、無視できない要因なのは確かです。