プラスチックは基本的に分解されることがないため、いつまでも残り続け、海洋でもマイクロプラスチックの汚染が問題になっています。
最近は生分解性プラスチックというものも登場していますが、この生分解は条件が限定的で自然に捨てた場合、普通のプラスチックと分解速度が変わりません。
カリフォルニア大学バークレー校の研究チームが発表した新しいプラスチックは、分解酵素をはじめからプラスチックの中に埋め込むという方法を実現させており、水と熱だけで分解され、その後土壌中の微生物によって堆肥化されます。
この方法によって、新しいプラスチックは最大98%が低分子に分解されるといいます。
この研究は、4月21日付で科学雑誌『nature』に掲載されています。
目次
生分解性プラスチックの問題点
分解酵素をあらかじめ埋め込んだプラスチック
生分解性プラスチックの問題点
生分解とは、バクテリアや菌類などによって化合物が無機物になるまで分解されるプロセスのことをいいます。
現在、生分解性プラスチックというものが登場していて、これらは環境中の微生物によって分解されると宣伝されているため、プラスチック汚染問題を解決させるものとして市場にも多く出回っています。
この生分解性プラスチックは、自然環境へポイ捨てしても土に還るようなイメージを抱きます。
しかし、実際はポリエステルを主成分とする生分解性プラスチックは、分解するために高温などの限定的な条件が必要で、自然環境ではほとんど分解されません。
このため、実験室で調整された環境ではうまくいっても、埋め立て処理された場合、通常のプラスチックと変わらずほぼ永久に残り続けるといわれています。
むしろリサイクル可能プラスチックと分ける必要が出てくることで、リサイクル業者を混乱させる原因にもなっています。
プラスチックは通常の使用では分解されないように設計されていますが、それは廃棄された後も分解されないことを意味します。
生分解性プラスチックは、環境問題に対する起死回生の一手のようにもてはやされてはいますが、実際は多くの問題点を抱えているのです。
素材の耐久性と、分解のされやすさは非常に難しい問題です。
そんな状況に対して、カリフォルニア大学の研究チームは、これまでより分解が容易な新しい生分解性プラスチックを開発しました。
この新しいプラスチックでは、ポリエステルを食べる酵素を製造過程で埋め込むことで、これまでよりも短期間で分解されやすくなっているといいます。
分解酵素をあらかじめ埋め込んだプラスチック
新しいプロセスは、ポリエステルを食べる酵素をプラスチックの製造過程で埋め込みます。
この酵素は、シンプルなポリマーに包むことで保護されていて、酵素が崩れて役に立たなくなることを防いでいます。
熱や水にさらされると、酵素はポリマーの覆いを脱ぎ捨てて、プラスチック化合物を構成要素に分解し始めます。
さらにポリ乳酸(PLA)の場合は乳酸に還元され、生分解を行う土壌微生物の餌になり、堆肥化されていきます。
この技術で作られたプラスチックは、最大で98%が低分子に分解されたとのこと。
また、今回の研究では、分解酵素をプラスチック全体に埋め込んだことで新たな利点が生まれています。
下の画像の緑の粒は、リパーゼなどの酵素を示しています。
通常これらの酵素はプラスチックのポリマーを表面から分解します(左上)。
しかし、ランダムにポリマーを切り刻んでしまうため、このプロセスではマイクロプラスチックが残ってしまいます(右上)。
今回研究チームは、酵素をプラスチック全体に埋め込みました(左下)。
この酵素はランダムなヘテロポリマー(図中で色付きボールの鎖)で保護されていて、鎖の末端付近に固定されています。
このため、プラスチックは使用中は完全性が維持されます。
しかし、熱や水分などの適切な条件にさらされると、酵素は活発になりポリマー鎖の末端から順々に噛み砕いて分解していきます。
酵素は、プラスチックを顔料で着色するように全体にまんべんなく浸透されます。
そのため、酵素が隣り合うポリマーを食べ尽くすことで、素材全体が崩壊しマイクロプラスチックが残りません。
通常ならバラバラになってしまう酵素を、優しく包み込み結合させ機能させた点が、この研究の革新的な部分です。