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1460個もの遺伝子の活性が変化していた
人間のうつ病も親の「経験」が原因かもしれない

1460個もの遺伝子の活性が変化していた

慢性社会的敗北ストレスは父マウスから子へ「精子にのって遺伝する」と明らかに
(画像=慢性社会的敗北ストレスは精子に乗ってRNA配列の違いという形で遺伝していた / Credit:Canva/ナゾロジー編、『ナゾロジー』より引用)

哺乳類であるマウスは人間と同じく、精子が卵子に受精することにより子どもが産まれます。

そのため親の「経験」が遺伝するならば、その情報もまた、精子や卵子に反映されていなければなりません。

そこで研究者たちは、慢性社会的敗北ストレス状態に陥ったマウスたちの精子に含まれるRNA(長鎖ノンコーディングRNA)の配列を調べました。

結果、ストレスからの回復力が弱いマウスでは1460個もの遺伝子の転写パターンが変化していたことが判明します。

一方でストレスからの回復力が強かったマウスでは、遺伝子の転写パターンの変化は62個に抑えられていました(ストレスを受けていないマウスの精子は0個)。

長鎖ノンコーディングRNAは、遺伝子の活性度を制御する遺伝子の一種として知られており、これが精子に乗って受精卵に届けられた場合、子マウスの体全体の遺伝子活性が大きく影響されることになります。

以上の結果から研究者たちは、親マウスの受けたストレスはRNAに刻まれ、精子に乗って子マウスに遺伝すると結論しました。

人間のうつ病も親の「経験」が原因かもしれない

慢性社会的敗北ストレスは父マウスから子へ「精子にのって遺伝する」と明らかに
(画像=人間の経験も子供に遺伝しているかもしれない / Credit:Canva/ナゾロジー編、『ナゾロジー』より引用)

今回の研究により哺乳類でも、親の「経験」が子に遺伝することが示されました。

重度の「うつ状態」に陥った父マウスたちは、生命の設計図であるDNAを変化させなくとも、遺伝子の活性度を変化させることで、自分の経験を次世代に遺伝させていたようです。

経験が遺伝されたことにより、子マウスはストレスに対して弱く過敏になってしまいましたが、これは危険を回避しようとする強い動機を子マウスに授けることにもつながります。

つまり生存率の増加につながる親からの贈り物というわけです。

研究者たちは今回の結果を、気分障害など人間のストレス反応の理解に応用できると考えています。

これまで精神疾患については、家族の病歴などを調べることがあっても、親の「経験」については全く触れられていませんでした。

しかし今回の研究により親の「経験」という新たな原因が示されたことで、全く新概念の治療薬の開発につながると期待されます。

もしかしたら未来のメンタルクリニックでは初診時に自分の経験に加えて、親の「経験」を記入する欄があるかもしれません。


参考文献

Mice Fathers Pass Down Stress Responses to Offspring via Sperm

元論文

Sperm transcriptional state associated with paternal transmission of stress phenotypes


提供元・ナゾロジー

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