脳活動の記録は、未だ原因が判明していない病気の調査に役立ちます。
しかし、計測のために長期間入院するのは簡単ではありませんし、計測されるデータは入院時であって「日常」のものではありません。
そこでアメリカ・カリフォルニア大学サンフランシスコ校の脳神経外科に所属するフィリップ・スター氏ら研究チームは、リモートで脳活動を監視・刺激できるデバイスを開発しました。
インターネットにつながっている環境であれば、日常生活を続けながら脳活動の記録が可能なのです。
研究の詳細は、5月3日付の科学誌『Nature Biotechnology』に掲載されました。
目次
脳活動を絶えず監視するリモートデバイス
継続的な脳活動の記録と刺激治療
脳活動を絶えず監視するリモートデバイス
運動障害の1つであるパーキンソン病には、神経伝達物質「ドーパミン」の減少や不規則な脳波パターンが関わっていますが、正確な原因は未だ分かっていません。
その治療法として、脳に電気的刺激を送り込んで症状を改善する「脳深部刺激療法(略称:DBS)」があります。
このDBS用デバイスは、脳に埋め込まれた電極と信号送信用ワイヤーで成り立っており、パーキンソン病の症状を管理します。
今回研究チームは、DBSデバイスの進化版を開発したとのこと。
本来は入院して脳活動を記録しつつ、必要に応じて刺激を送るデバイスなのですが、進化版はこの一連の作業をワイヤレスで行えます。
脳インプラントにより記録された脳活動は、患者が装着した小型デバイスから無線で送信されます。
最終的にはクラウドにアップロードされ、記録として保管・分析されるとのこと。
スター氏は開発されたデバイスに関して次のように述べています。
「これは、脳信号全体を何時間にもわたって継続的かつ直接ワイヤレスで記録できるはじめてのデバイスです」
「つまり、人々が日常生活を送っている間、長期間にわたって脳全体を記録できるのです」
継続的な脳活動の記録と刺激治療
研究チームは新DBSデバイスを5人のパーキンソン病患者に埋め込み、日常生活における脳活動を記録しました。
数カ月にもわたる記録は、患者が腕に装着した「運動感知デバイス」による運動データと比較されました。
また実際に記録された脳波に応じて電気信号を送り、症状の改善効果も測定できたとのこと。
これまでは不可能だった日常生活における継続的な刺激の効果を確かめることができたのです。
また研究チームは、最終的に15カ月間、脳活動を記録し続けました。
これほど長期間の記録は、運動障害を発生させる脳活動の変化(バイオマーカー)を個々の患者で特定するのに役立ちます。
つまり、個々に合わせてカスタマイズしたDBS治療が可能になるのです。